ハノーワの論評から10年後の1908年10月、画廊のヴィンクル・オ・マウヌスン(Winkel & Magnussen)でホルスーウの展覧会が開催されている。その模様を報じた新聞記事には以下のようなコメントが見られる。「デンマークの芸術家には、これまでも、そして現在も極めてすぐれた室内画家たちが大勢いる。現代の画家の中で、その最高峰の一人がカール・ホルスーウであり、あるいは彼に勝る画家はいないかもしれない。もしいたとしても、彼がとりわけ手がけてきた主題において彼に匹敵する者はいない。それは、整然としたシルエットの古い帝国様式の家具が、過ぎし時代の高貴なしるしを纏う、親密な室内の情景である。」(注10)ホルスーウの室内画が表象しているもの、あるいは少なくとも新聞の寄稿者が感じた作品のもつ特徴は、ヨハンスンの作品と同じ「親密さ(hygge)」である。しかし、ヨハンスンとホルスーウとでは描いているモティーフが異なっており、前者では家族の幸福な日常生活の描写によって醸し出される親密な雰囲気が、後者では描かれたモティーフの洗練されたフォルムと、ある種のノスタルジーによって掻き立てられるものに変化している。こうした「親密さ」の概念の変容あるいは拡大は、1900年代初頭には顕著になっていたと考えられる、室内画における表現の変化と密接な関わりを持っている。1903年、ハノーワは当時の室内画の転換を以下のように述べている。「今日では人物が一人で佇む室内画が盛んに描かれる(あるいはより多いのは、無人の室内画かもしれない)。それらは、人間的な温かみを表現するためというよりも、絵画的効果を得るために描かれており、絵画芸術に特有の本質的な要素として絵画的効果を独立させる現代の典型的な姿勢のもっとも雄弁な証人である。・・・彼らが描く作品から判断する限り、若い画家たちは、自身の生活よりも自身の芸術のために室内空間を設えている。」(注11)ハノーワは室内画の新しい表現を体現する「若い画家たち」として、ギーオウ・エーケン(Georg Achen 1860-1912)〔図5〕、イルステズ、クレスチャン・クラウスン(Christian Clausen 1862-1911)〔図6〕、ホルスーウ、ハマスホイを挙げている。従来の室内画が表現してきた「人間的な温かみ」とは、すなわち家族の幸福な物語であり、画家自身の生活に根ざした自然主義的なものといえよう。対してハノーワは、「若― 459 ―― 459 ―
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