鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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そうした中、多くのフォルチュニ作品を収蔵したロサンザルス・カウンティ美術館は、1967年から翌年にかけ、「マリアノ・フォルチュニの記憶」(注2)展を開催している。一方、ヴェネツィアのフォルチュニ旧居であるペーザロ・オルフェイ邸が1975年にフォルチュニ美術館として開館し、数年に一度展覧会を行った(注3)以外は、世界的にも目立った展覧会は開催されていない。フォルチュニについてのモノグラフィーも、1970年代末まで出版されていない。1979年に初めて、マリー・デショットにより『マリアノ・フォルチュニ ヴェネツィアの魔術師』(注4)が、翌年にギジェルモ・デ・オスマによって『マリアノ・フォルチュニ その人生と作品』(注5)が発行される。両者とも、カラー写真とともに、デルフォスを中心に、ベルベットのコートやケープなどの外衣が紹介され、絵画や舞台美術などといった幅広い彼の仕事の概要と、芸術家としての重要性が紹介されている。これらの書籍は21世紀に至るまでほぼ同じ内容で再版が繰り返されてきた。日本では、1985年に東京で開催された、「布に魔術をかけたヴェニスの巨人―フォルチュニイ展」(注6)が、日本で初めてフォルチュニを服飾デザイナーとして紹介した重要な展覧会として語り継がれている。日本ではこの展覧会をきっかけにフォルチュニの存在が注目を集め、染織だけでなく、舞台や文学の側面からの研究も行われるようになる。その後、1993年に、この展覧会の出品者でもあった、日本にゆかりのある蒐集家(注7)のコレクションが売り立てに出されたことから、日本の染織・服飾系の美術館や教育機関が、主として「デルフォス」を収蔵した(注8)。作品が収蔵されたことで、収蔵館を中心に、服飾デザイナーとしての側面や、再現不可能というプリーツについての実際的な研究も行われるようになる。その後、個展ではないものの、国内の所蔵品を中心として、2008年から2009年に神戸、益田、東京で「ポワレとフォルチュニィ」展(注9)が開催された。この展覧会は、1985年の「布に魔術をかけたヴェニスの巨人―フォルチュニイ展」以降、フォルチュニの重要性を明らかにした展覧会として重要な位置を占める。海外においても、近年、クチュリエとは異なるフォルチュニの芸術家としての業績が再評価され、大規模な展覧会が行われた。2016年にはサンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館(注10)において、同館が所蔵する染織品を中心とした工芸品と、フォルチュニ美術館の所蔵する資料とを比較し、フォルチュニ作品における歴史的染織品の影響を考察する展覧会が開催された。また翌2017年には、パリのガリエラ宮パリ市立モード美術館(注11)において、フォルチュニが染織の仕事を開始するまでの、画家、版画家、写真家といった側面に触れつつ、同館が所蔵する「デルフォス」― 475 ―― 475 ―

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