していたとは思われないが、染織に携わった最初期から、ヨーロッパにおけるステンシル技法とは異なるプリント法の一例として、日本の型染めの存在を認識していた。フォルチュニは、浮世絵や歌舞伎等の舞台など、日本の文化に関する書籍を複数所有しているが、その中には型紙についての書籍もある。ひとつは1893年頃に発行されたアンドルー・W. テューアーによる『楽しくも奇妙なデザインの本、日本の型紙の芸術100点』(注19)、もう一冊は1909年頃に発行されたテオドール・ランベールによる『日本の型紙の模様』(注20)である。双方、ヨーロッパの画家やデザイナー、また型紙のコレクターたちの間に広く出回ったものである。テューアーの『楽しくも奇妙なデザインの本、日本の型紙の芸術100点』は、型紙について詳細に、同じ内容を英仏独の3言語で紹介し、半分に切った染め型紙の実物が付属している。フォルチュニ美術館に遺されたこの書籍は、それ自体、かなりの傷みがあり、使い込まれているように見える。付属していた型紙も欠落しており、フォルチュニが繰り返し参照していた可能性を示す。フォルチュニはまた、型紙そのものを所有しており、現在、14枚の型紙がフォルチュニ美術館に遺されている。中形、小紋いずれもあり、それぞれの模様は次のとおりである。「雀に案山子」「蕨に二葉葵」「朝顔」「七宝に二葉葵」「垣根」「手綱取り松皮菱に菖蒲皮」「立涌取り牡丹に菊」〔図5〕「海鼠雲に紅葉」「枝垂梅」「柳に鞠」「格子」「源氏車繋ぎ」〔図6〕「絣」「丸に小花入り」型紙自体の形状や彫りの技術から、いずれも江戸末期から明治40年頃までに作られたと思われる。「立涌取り牡丹に菊」には、サントノレ、オペラ、シャトーダンと、― 477 ―― 477 ―
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