パリの通りの名称の見えるシールが貼られており、パリに店舗を構えていたフォルチュニが直接購入した可能性を示唆するが、一方、これらの型紙の模様を用いたフォルチュニによるデザインは一切存在しない。一方、所蔵していた書籍に掲載された図案をそのまま利用しているデザインも存在する。フォルチュニ美術館にはフォルチュニ自身でテキスタイルの試し刷りを貼り込んだとされる台紙が23枚あり、その一部に明らかに日本の模様を引き写したデザインが見られる。その引用先の一つは、モーリス・ピラール・ヴェルヌイユが編集した『日本の布』(注21)に掲載された冒頭一枚目の図版で、パリの装飾美術館所蔵の「立涌取り蝶に葵」の模様〔図7〕である。フォルチュニは、絹ベルベットの図案として、「立涌取り蝶に葵」の模様をそっくりそのまま引き写した〔図8〕。書籍の中では図版として、布の一部のみを掲載しているが、フォルチュニは模様を繋いでいくべきことを理解しており、実際にベルベットにプリントされた模様では、立涌が繋がり、次々と模様が展開していく。このデザインは実際に服飾作品に転用され、京都服飾文化研究財団が所蔵する《コート》〔図9〕に用いられた。この作品でも、途切れている模様を繋いだ、という工夫がある以外には、模様はそのまま、色彩も似たようなベージュ系であり、何らかの改変を加えるとか、組み合わせるとかといった、独自性を付加するような工夫は全く認められない。フォルチュニが使用している技法は、織りではなく染めであるのにもかかわらず、原図に特徴的な、織りの目を真似するところまで同じである。ヴェルヌイユの『日本の布』からは、もう一点、模様を自らのデザインに利用している。それは、第5図の、アンリ・ヴェヴェール所蔵であった「輪繋ぎ菊花に井桁」〔図10〕である。この模様も「立涌取り蝶に葵」と同様、ベルベットにプリントのデザインとして用いられており〔図11〕、見られる菊花と輪繋ぎとの位置関係も同一である。同じく模様は改変がなされていない。ベルベットが色あせ、菊花の当時の色調は不明であるものの、青色を基調とした色彩もオリジナルの藍色の影響とも思える。この「輪繋ぎ菊花に井桁」のうち、「井桁」のみを取り出して、別の書籍の模様と組み合わせたものもある。フォルチュニ美術館にも遺されている、アンドルー・W.テューアー著の『楽しくも奇妙なデザインの本、日本の型紙の芸術100点』の中にある「雪輪葵」〔図12〕の模様をまるごと抜き、この二つの模様を組み合わせたものである〔図13〕。二冊の本から取り出した二種類の模様を組み合わせているという工夫はあるものの、やはりそれぞれの形状は全くの引き写しである。なお、この組み合わせ模様は京都服飾文化研究財団所蔵の《室内着》〔図14〕に使われている。《室内着》― 478 ―― 478 ―
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