III4528 天部像頭部(『報告書』Tafel 13-2,高25cm)〔図5〕III4526 鬼形面部(『報告書』Tafel 13-3, 髪際~顎10cm)〔図7〕III4525 鬼形面部(『報告書』Tafel 13-4, 髪際~顎10cm)〔図8〕図されているかはまた別問題である。このことは後述したい。面部は型取りの上、別製の鬚などを貼り付け、眉下など一部を篦で成形している。面相は、眼を大きく見開き眉根を寄せて眉をつり上げていることは忿怒の形相を思わせる一方、小ぶりの口は軽く閉じて怒りの片鱗も感じさせず、アンバランスな印象を受ける。口髭・顎髭は巻き毛の細い束であらわす。西域塑像において類似の面貌はカラシャール地域のバラモン像に多く見出すことができる〔図6〕。髪際を明瞭につくり、梳き上げた髪筋を篦を入れて表す。頭頂には鳥形の冠を戴く(鳥は頭部・両羽先・後半分を欠損)。彩色は、肉身は白く塗り、頭髪・眉・鬚は淡い青、眼の内側に同じ青色の線を引き、瞳は中央に黒、外側に朱を入れ、唇は朱で彩る。鳥形を戴くことから、本像を執金剛神、或いは兜跋毘沙門天などとする説がある(注11)。しかし近年、コータン(于闐)のトプルクトン遺址で鳥形を冠飾にあらわす着甲守護神像の壁画が発見され、『金光明最勝王経』に見える散脂夜叉大将(サンジュニャーヤ)に同定された例がある(注12)。また『大唐西域記』「迦畢試国」の条には、「大神王」像が戴く冠中の鸚鵡が盗人から伽藍に埋められた宝物を護ったという記事がある(注13)。中央アジアでは、鳥形あるいは鳥冠を戴くという特徴が、守護神一般のイメージと捉えられていたようであり、したがって本作例も鳥を戴くという特徴のみからは尊格を同定しがたい。戦災で失われたIB 4529とともに、後期ガンダーラ美術以来の「グロテスク・ヘッド」と通称される類型に属する。2件は同范で、面部はほぼ円形を呈し、額は狭く、瞋目して眉根を寄せる。ただし、口はそれぞれ手びねりで表現に変化をつけており、III4526は口を大きく開けて上歯列を剥き出すのに対し、III4525は口を横に引いて軽く開く。III4526は右耳も残り、花型の耳飾りをつけ、怒髪は真っ直ぐの毛筋を篦書きし、細かい巻き毛を貼り付けている。III4526は毛束を分けた頭髪の根元のみ残る。一部欠損するなどの違いがあり、ベルリンで戦災に遭った可能性も考慮される。III4525は火中の跡が顕著である。報告書の写真と比べると、現状では頭髪の表面が― 530 ―― 530 ―
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