字型の茎から葉が広がるメダリオンのようなデザインである。金糸のアンダーサイド・カウチングでステッチされ、絹糸のステム・ステッチでバックの周りが縁どられている。絹生地はかなり欠損している。3. ソールズベリー大聖堂(Salisbury Cathedral)イギリス/ウィルトシャー〔表2〕参照ソールズベリー大聖堂は1220年に創建されたゴシック様式の大聖堂である。所蔵されているボールドウィン・シャスブル(The Baldwin Chasuble)は、青緑に金の植物模様のある天鵞絨に、磔刑のシーンや聖人を施したオーフリーが縫い付けられている。オーフリーの刺繍は少し粗いが色彩豊かで、背景はサーフェイス・カウチングで縫いつくされており、全面にスパンコールが散らばり縫いつけられている。オーフリーの途中に縫い目があり、丁寧に修復されている。この大聖堂には、20世紀に制作された著名な刺繍の祭壇カバーなどが数点、保管・展示され教会刺繍が受け継がれている。現代の多様な色の典礼服が26着ほど、保管し着用されている。4. ダラム大聖堂内 宝物館(Durham Cathedral/Open Treasure) イギリス/ダラム〔表2〕参照ダラム大聖堂は1093年に創建されたノルマン様式の大聖堂である。ダラム大聖堂に保管・展示されている金色のストール(Stole/ミサの際、首からかけられている細長い布)やマニプル(Maniple/左腕に掛ける細い布)、ガードル(Girdle/リバーシブルの狭いベルト)は、909-916年の間に制作されたと信じられている。1827年、聖カスバート(St Cuthbert/634-687)の棺から発見され、その際、フリンジの破片は聖遺物として配布された。ビザンチン美術のモザイク画の聖人を彷彿させ、カロリング朝写本(Carolingian manuscripts)を介して取り入れられたのではないかと言われている(注2)。ストールは、旧約聖書の預言者達が、手に本とヤシの木を持ったデザインである。マニプルは神の右手と教皇や執事、聖人、ガードルは植物文様が表現されている。白い絹の土台布に横たえた本金糸を、赤い絹糸で留め付けたサーフェイス・カウチングにて背景を縫い尽くしている。日本刺繍では金糸を赤糸で止付けると金が映えると言われている。本金糸は、ほぼ純金のストリップを赤い絹の芯に巻き付け作られている。聖人の顔や衣服は、茶やグレー系の絹糸のスプリット・ステッチで埋められ、輪郭は黒色のステム・ステッチで、衣服のひだは金糸で縁どられている。光輪は金糸でアーガイルやヘリングボーンなどの文様が刺されている。裏地に赤の絹生地が付けられて― 543 ―― 543 ―
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