ヌム」の中で、技術の完璧さ、ステッチの繊細さ、彩色の調和に優れ、細部にわたり人物の表情も豊かで、欠損し修復されている部分はあるが、フード(Hood/コープ背面の上部に付いている三角形のような装飾で、初期の行列などで頭を覆っていたフードの名残)もあり、非常に状態のよい作品と言える。刺繍糸を失った部分では、詳しく描かれた下絵が見えるが、土台布のリネンは、アンダーサイド・カウチングにて市松模様、菱形、ヘリンボーンなど、それぞれ異なるパターンで、垂直と水平方向に縫いつくされている(注3)。人物の衣服の裾は全て金糸で模様が縫われている。8.市立中世博物館(Museo Civico Medievale)イタリア/ボローニャ〔表2〕参照市立中世博物館は、中世とルネサンス期の作品を中心に所蔵、展示されている。ボローニャ・コープ(The Bologna Cope)は、金色の地色に色彩豊かな作品で、半円の裾に沿い、2段のゴシックアーチに新約聖書の場面が描かれ、アーチの上に聖人の顔がデザインされている。オーフリーとフードは欠損しているが、現存するオーパス・アングリカヌム中で、最も大きいコープである。大英博物館所蔵の装飾写本「メアリー女王の詩篇」(The Queen Mary Psalter)と類似している。背景のアンダーサイド・カウチングは、ヘリンボーン柄で縫いつくされている。アーチの色が交互になり、草の表現も独特である。大きな口を開ける怪物のデザインは、フィレンツェのクーポラのフレスコ画を想い起された。9. 国立考古学博物館(Museo Arqueológico Nacional/ MAN) スペイン/マドリード〔表2〕参照MANは、スペインの歴代王室の収集品や考古学、民族誌学、中世キリスト教の作品が充実している。マドリード・コープ(The Madrid Cope)は、ダロカ・コープ(The Daroca Cope)としても知られ、ダロカの大聖堂にベネディクト13世(Pope Benedict XIII/1649-1730・第245代ローマ教皇)が寄贈したものである。退色した金色の作品で、旧約聖書と新約聖書からのシーンがバーブド・カトルフォイルの中にデザインされ、3段で配置されている。天使にはクジャクの羽のパターンが施されている。背景は、アンダーサイド・カウチングでヘリングボーン柄に縦方向で埋め尽くされ、裾の弧に沿って、全体的に横方向の波紋がみられる。このような地紋は他に類がない。オーフリーは後から新たに取り付けられたもの。1963年V&Aの展覧会の際には、鮮やかな色彩だったとの記載がある。― 545 ―― 545 ―
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