注⑴ るく感じられた。中世のイギリスでは絹が生産されなかったので、このような表現を織の経糸と緯糸の光沢から、緞子のような豪華で柔軟な生地のように見せる工夫をしたのではないかと推測される。また、刺繍は織と違い、経糸と緯糸の制限にとらわれず、自由に表現が出来、糸から素材も作れ、絵を描くように自由なデザインを表現することが出来る手法だからこそ、このような技法が深まり、輸出刺繍が成功し、「オーパス・アングリカヌム」はその名を広めたものと推測される。日本に伝わる繍仏・繍刺繍釈迦如来説法図(奈良時代もしくは中国・唐 8世紀/奈良国立博物館 蔵)などには、仏や菩薩の身体の起伏や頬の丸みに合わせ、鎖縫いで渦巻きを描くように縫っている(注4)。オーパス・アングリカヌムの13世紀の作品の顔には、スプリット・ステッチで類似の技法がみられ、15世紀では頬に沿った曲線で、現代は垂直に縫われている(注5)。材料と共に、このような技法が時代や地域を超えて伝来した可能性も否定できない。今後、日本の繍仏との比較も行いながら、この研究を継続していく。マドリード・コープは、プロセッション(Procesión/宗教的なパレード)の際、高位聖職者に着用され、町中を歩いたと言われる。スペインの燦燦と輝く太陽光に煌めくコープは、素晴らしいプロパガンダになったに違いない。神の色である黄金のコープを身に纏い、その輝きに包まれた時の至福、また、それを見ることが出来た信者、大聖堂のミサの際、振り香炉(Thurible)の香りの嗅覚と共に、神聖な気持ちは高まった事であろう。ゴシック美術が影響を受けたビザンチン美術、ラヴェンナのモザイク画なども観てまわり、中世の創造力や色彩を感じ、中世の美術が残るフィレンツェの美術館や博物館、大聖堂などを観察でき、キリスト教の祭礼空間における刺繍の総合芸術としてのオーパス・アングリカヌムの金糸技法の洞察が深まった。今後、ニューヨークやフランス、オーストリア、ベルギー諸国の作品も、比較検討したい。― 547 ―― 547 ― Browne, C., Davies, G., & Michael, M. A. (Eds.) (2016).English medieval embroidery: Opus Anglicanum. Yale University Press.Ivy, Jill. (1992).Embroideries at Durham Cathedral. Dean & Chapter of Durham.⑵ ⑶ Martini, L. (2001).Il piviale di Pio II. Silvana.⑷ 奈良国立博物館編『糸のみほとけ』2018年⑸ Hands, Hinda M. (1950)Church needlework; a manual of practical instruction. The Faith Press, Ltd.
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