鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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ここでは、「順」字のつく法名に共通性がみえる雲順(院豪730号像)、覚順(院恵分646号像)、快順(48号像)、栄順(53・837号像)、朝順(122・197・797号像)の5名について考えたい。彼らについては、これまでほとんど言及されておらず、所属も明らかでなければ、仏師であるかも定かでない(注3)。ただし、少なくとも雲順や覚順、快順は、銘文に「作」や「造」と記すので、彼らは実際に造立した仏師と解される。また、単に名を記すのみの栄順と朝順ついては検討を要する。雲順と覚順は院豪・院恵のもとで各1軀を造立している。院豪と院恵の作風をまず確認したい。院豪作は胸腹部の括れが大きく、胴が長い。腰幅を広くとり、裙は腰部から裾に向けてあまり広げず直線的につくるが、両脚の際に沿って縦に襞を作り、脚部に立体感をもたせている。衣文線は腰布正面と両脛にU字を数本重ねた形式的なもので、これらの要素は創建像を模したものと解される。天冠台も創建像の形式に則り、紐二条に列弁を巡らし、花形を重ねる。院恵作は、院豪作よりも細身の長身に作り、裙裾の広がりが控えめで、衣文線や衣の襞も少なく、体部の扁平さが際立つ。天冠台は、紐二条に列弁文を重ねるのみである。同じ院派仏師とはいえ、院豪と院恵では作風が異なることがわかる。院派仏師は、本造営のうちでも参加仏師の員数も作品数も最多であり、先行研究でも作風分類がなされているが(注4)、この二者の特徴で分類するならば、創建像に基づきながら新風を加味した院豪の系統は、院継・院審・院遍・院賀・院有・院海・院祚・院玄、平面的で停滞した感のある院恵系統は院承・院算・院瑜、と分類できそうである。さて、雲順作の730号像〔図1〕は、天冠台の形式から腰布の衣文線の引き方まで上述した院豪作の特徴を踏襲している。銘文に「分」とは記さないが、雲順は、院豪の統率下に組み込まれた仏師といえそうである。一方、院恵分覚順作の646号像〔図2〕には、院恵の作風的特徴が積極的に認められない。すなわち、646号像の天冠台は、紐二条に低い列弁を重ね、花形は正面で三方に区切る。また、腰高で上半身も腰部も幅が広い。裙は脛辺りで一度窄まり、裾に向かって張り出す。この天冠台の形式は院恵作941号像及び院恵分定承造397号像にも認められるが、裙裾の特徴は再興像中では円派仏師作品に認められるものであり、特に646号像は隆円風に近い。次に、快順自作と解される48号像〔図3〕は、紐二条・列弁・花形を重ねる天冠台を着け、裙裾は直線的で、両脚の形をはっきり表しており、院豪系統に分類できる。これは栄順(837号像)〔図4〕も同様であるが、栄順のもう一軀(53号像)〔図5〕は紐二条・列弁の天冠台を着け、ほっそりとしたプロポーションの院恵系統である。そして、朝順の797号像〔図6〕の着ける天冠台は、上下に各紐一条をめぐらした― 552 ―― 552 ―

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