3.2016年度助成①アジア近代美術形成期におけるオランダの影響─オランダ領東インドを中心に─(1)インドネシアとオランダの文化交流を例示する美術作品・関連資料研 究 者:福岡アジア美術館 学芸員 中 尾 智 路日本におけるアジアの近代美術史研究については、近年になって特に東アジアにおける日本植民地時代に焦点を当てた研究・展覧会が精力的におこなわれ、目覚ましい成果をあげている。しかしその一方で、東南アジアについては、ASEAN6カ国の近代美術史を包括的に紹介した1997年の「東南アジア─近代美術の誕生」展(福岡市美術館ほか)以降、この地域の美術史的な問題に肉薄した研究が盛んになされているとは言い難い。その原因のひとつは、東アジアに較べ、東南アジアの近代美術作品や関連資料が、その国の美術館や博物館にまとまって保管されていないため、あるいはそうした機関が未整備であるため、さらなる調査・研究活動が思うように進展しないことにある。そこで、17世紀以降300年以上にわたりオランダ領東インド(注1)を統治してきたオランダに赴き、熱帯博物館及び国立民族学博物館が有する世界最大規模のインドネシア・コレクションを調査。(1)インドネシアとオランダの植民地期の文化交流を例示する美術作品・関連資料を発掘するとともに、(2)インドネシアの近代美術や視覚文化の形成がオランダからどのような影響を受けてきたのか、あるいは(3)インドネシア独自の近代的な美術表現とは何なのかを探ろうとした。オランダ国立世界文化博物館(熱帯博物館、民族学博物館、アフリカ博物館、世界博物館)及びインドネシアのプリ・ルキサン美術館の所蔵品を閲覧できるオンライン・データベースを利用し、「indonesia」という検索ワードで調べたところ、8,613件の関連作品・資料が該当した(注2)。その内訳は、オブジェ5,026件、写真3,490件、関連情報87件である。しかし文化人類学的な民俗資料や記録写真を除くと(注3)、美術作品に類する所蔵品は少なく、そのほとんどがオランダ領東インドに滞在したヨーロッパ人の作品ばかりであった。主要な作者と絵画・版画の所蔵点数は〔表1〕のとおりだが、インドネシア人が制作した作品は驚くほど少ないことがわかる。最も作品数が多いのはベルギー人の風景画家ペヨン(A.A.J. Payen)で500点近くに― 561 ―― 561 ―
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