鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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聖人記念聖堂と浦上地区を視察した。潜伏キリシタン関係の世界文化遺産登録にも関わった長崎純心大学のサイモン・ハル氏から、長崎の切支丹の歴史や展示品の解説を受けた。記念聖堂ではデ・ジョルジオ氏から聖堂の壁面に書かれた「聖心」に関係する聖句の指摘があった。また氏は同館館長のイタリア人ドメニコ・ビタリ神父と知遇を得て、会話をはずませていた。当日は長崎市最大の祭りともいえる諏訪神社のおくんちと重なっており、市内がかなり混みあっていたが、車窓から日本の祭りの様子を見学することができた。午後はハル氏のガイドで大浦天主堂を訪問し、天主堂建設の事情などを含めて解説を受け、その後大波止の港からジェットフォイルにて五島列島の福江港に渡って同地で一泊した。翌10月8日の午後には長崎市に戻り、9日の帰国便に間に合わせなければならなかったため、午前中に福江市の教会などをいくつか回った。まず、福江港からほぼ反対側の日本海に面した大瀬崎灯台へ向かい、近くの大宝寺を訪問した。同寺にハート形のもつ仏像があるとの情報があったためだが、実際にはそのような仏像はなく、大宝寺の「大」の字をデザインした装飾文様がハート形のように見えて、一種のチャンス・イメージとなっていた。テイシェイラ氏が、庭に置かれた仏像のひとつが、氏がスライドで提示したインドの幼児イエスの姿と酷似していることを指摘し、異宗教間の形の転用が見出されて興味深かった。次に、パリ外国宣教会の宣教師によって、日本ではじめて庭に作られた洞窟にルルドの聖母の模像が置かれた井持浦教会を訪問して、教会内部も視察した。その後三井楽教会に回った。三井楽教会は新しく建て直されていたが、旧教会で使用されていたさまざまな宗教具が資料館に展示されており、そこで数多くの聖心イメージを見出すことができた。また、シンポジウムの討論会でフロアから木村三郎氏が指摘した、宣教師がもっていた小型の書物の実例と思われるものも見ることができた。新教会の内部には、独特のイエス像やステインドグラスがあったが、テイシェイラ氏はその全体プログラムが平和を希求したものであると読み解いた。最後に資料館となっている堂崎教会を訪れて、明治期に宣教師がもたらしたものや中国経由で入ってきたと思われる聖画像や聖具に、数多くの聖心イメージを発見することができた。参加者のスケジュールの関係で一部の教会しか視察することができなかったが、発見したものについての意見交換をすることができて意義深い視察となった。今回のシンポジウムの講演内容をまとめた出版物を刊行する予定であり、その中で視察の過程で見聞したことも含めたいと考えている。― 590 ―― 590 ―

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