鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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有することの必要性に関し参加者に再認識を促すまたとない機会となったと確信している。なお、招致研究者は本講演会に加え、インスティトゥト・セルバンテス東京におけるフォーラムへの参加を予定していたが、来日を前に、体調上の不安を理由に予定がキャンセルとなった。インスティトゥト・セルバンテス東京でのイベントは内容を変更し、木下亮氏とリカル・ブル氏(バルセロナ自治大学/「奇蹟の芸術都市バルセロナ展」学術協力者)の二者による講演会「奇蹟の芸術都市バルセロナ」として、予定の日時(4月11日18:30~)で開催された。講演概要マルサー氏は、市内ラバル地区のブナプラタ繊維工場にスペインで初めて蒸気機関が導入され産業革命が本格化した1832年を起点に、内戦期の空白を挟んで現在に至るまでのバルセロナの都市空間の変遷について、若干の重複を持たせつつ設定した六つの時代区分に従って多数のスライドを交えながら紹介を行った。以下、報告者による補足を加えつつ時代区分ごとにその概要を報告する。第一期 拡張(ENSANCHAR):都市拡張の必要性が切実となった時期(1832~50年代)ここでは、産業革命の進行とともに引き起こされた市壁内の人口の極度な過密状況と都市インフラの不備を解消すべく市域を拡張することがバルセロナ市にとって急務の課題となったことに始まり、1854年の王令による市壁の取壊し許可(シウタデリャ要塞を除く)、1858年の市壁外への都市拡張の許可を経て、1859年に土木技師イルダフォンス・サルダーによって自発的に作成された都市拡張プランがその翌年に中央政府により正式に採用されるまでの経緯が多くの図面、資料とともに詳説された。基本的に一辺113mの正方形の街区が幅20mの道路によって分割されるグリッド構造を持つ現在のバルセロナの都市の形状は、このサルダーの都市拡張プランによって決定づけられている。これに加え、サルダーが1855年の時点で独自に考案していた市民のための住居のプランも紹介された。サルダーは富裕層向けの住居と労働者向けの集合住宅のプランを考案したが、富裕層向け住居は実際に1900年頃まで拡張地区(アシャンプラ)に建設されている。労働者向けの集合住宅は実際に建設されることはなかったが、住居棟の中に集会所など公共サービスのための施設を配置するというプランは、合理的思考に基づきつつ社会的平等性の実現を希求したサルダーに相応しい案である。マルサー氏が強調したのは、各街区の四隅に45度の角度で隅切りを施すことで、― 592 ―― 592 ―

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