鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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⑵海外派遣①フォルム・リミット・シンポジウム「色彩と抽象─彫刻における陶芸への回帰」げることができる。ガウディの初期の傑作カザ・ビセンスが修復を経て2017年に一般公開されたことは記憶に新しい。本講演においてマルサー氏が設定した六つの時代区分は、カタルーニャの美術史の流れを理解する上でも有効である。特に「奇蹟の芸術都市バルセロナ展」が対象とするスペイン内戦勃発までの時期について見ると、第一期と第二期はラナシェンサの時代、第三期はムダルニズマとノウサンティズマの時代、第四期はADLANによる前衛芸術擁護の時代とほとんど正確に符合する。都市開発にせよ芸術活動にせよ、それを時代の社会状況や政治状況と切り離し得ないということは言を俟たない。この意味で、両者の時代区分の符合は、その背景にあるバルセロナの社会状況、政治状況によってもたらされたものであるとすることが自然な見方なのかもしれない。しかし、であるからこそ、それぞれの分野における分析の結果を照らし合わせ、ジャンル横断的な研究を行うことにより、その時代の姿をより客観的に、より正確に捉えることが可能となる。今回のマルサー氏による講演は、その可能性を改めて示してくれるとともに、今後カタルーニャ美術の研究を志す者にとって一つの拠り所とすべき大きな視座を与えてくれたものと確信する。最後に、講演終了後、観光地化されたバルセロナにおける住民の権利侵害に関する問題、バルセロナにおける若者の雇用に関する問題、日本の都市における景観規制の問題、都市中心部への車の乗り入れに関する問題など、多方面にわたる活発な質疑応答がなされたことを記し、本報告を閉じる。期   間:2019年1月22日~2月1日(11日間)派 遣 国:フランス共和国報 告 者: 東京藝術大学 美術学部 教授   豊 福   誠 東京藝術大学 美術学部 准教授  三 上   亮 東京藝術大学 非常勤講師田 中 隆 史 山 本 直 紀東京藝術大学 非常勤講師― 597 ―― 597 ―

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