状にする。それをガラス板に付着させ、その板を30枚重ね粒状の立体を作り上げる手法である。そこでは日本陶の技術の歩みである形体の模倣、つまり「写し」といわれる概念を用いる。今回は中国の北宋時代の景徳鎮の白磁水注の形を写し、ガラスの中に展開、フランスの日常と中国で完成された白磁時代を結ぶコンセプトを加える。モデルとなる白磁水注の形をガラスの層を通して錯覚によって浮かび上がらせる。そして形体の輪郭を取り除いていくことにより、エッセンスを抽出、形体の模写を超えた抽象的な存在を作り上げることを試みている。この「空」を構成する概念は「物質の存在」、「陶のプロセス」と「歴史的時間」を骨格として、さらに陶磁器とガラス板があればどこでもつくり出せる「再現性」などのコンセプトを新たに加え、幅広く考えて制作していることを述べた。第二部では、フランス在住の大江氏が、日本人の感じる色を日本の伝統的な焼き物の中から歴史観を含めて例に挙げ説明した。それは極めて興味深く、日本の信楽焼の中に制作や焼成プロセスを通じて現れる人間の営みがやがて自然の景色となり作品となることを解き明かした。そして「物質の状態を明らかにすること」が、本来的に日本人が感じる「色」であると定義した。さらに踏み込んで江戸時代の禁色の時代のもとで多くの中間色が生まれ、その中間色一つ一つに名前をつけ生活を楽しんだ民衆の創造力など、日本人が大切にしてきた伝統を説明した。次にセーブル現代美術館の元館長であるフレデリック・ボデ氏が現代フランスを代表する陶芸作家であるフィリップ・バルド(Philippe Barde)の作品を解説した〔図2〕。その作品はスイスの歴史的な陶芸家ポール・ボニファス(Paul-Ami Bonifas 1893-1967、手工業の連続生産のデザイン方法に革命をもたらした)の足跡をたどるもので、バルドは彼の残した陶器作品の為の鋳型を複製し、その型を使い作品制作を行った。しかし彼はボニファスの作品をそのまま再現するのではなく、それを出発点として、それらを切断し、部分に分け、分けたパーツを組みあわせる実験を重ね、くぼみを変えるなど新たな造形表現へと試行を行った。また釉薬に関しても実験を繰り返し、釉薬により形を覆い、その流動性や厚みによって、形を消滅させようとしたのだった。ボニファス自身は、輪郭線に非常に強い感覚を持っており、彼の作品は非常に精密で緻密な幾何学的ラインに溢れている。彼は、非常に厳格なフォームを追求する形式主義者だったが、バルドは対照的に形を解体し、柔らかくし、その形が変異体で有機的に見えるようにした。バルドはボニファスの鋳造型を使い、内側の形が崩れるまで、成形、再形成、再鋳造を3年間繰り返し、ボニファスの形式をほぼ分解した陶芸― 600 ―― 600 ―
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