鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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む手法がとられる傾向が強い。この原理により「陶」も他の素材と同一とみなされ、表現の多様さが生まれていると推測できる。ボデ氏、ヴァンドゥワル氏の講演からも具体的にそれを見ることができ、西欧における現代陶表現の領域の広がりを確認することができた。今回のシンポジウムによって日本と西欧の陶造形思考の差を明らかにし、その原理に踏み込めたことは意義深いこととなった。そして今後世界の「陶」を考える上での貴重な機会となった。5 ワークショップ2019年1月29日(火)、シンポジウムと併行して陶芸文化交流を目的にパリ市のデュペレ応用美術学校においてワークショップを開催した〔図3〕。炭窯による焼成と低温釉および施釉の方法を学生に伝え、文化の違いによる陶表現の相互理解を図った。参加者: 三上亮(東京藝術大学美術学部准教授) 山本直紀(東京藝術大学非常勤講師) 田中隆史(東京藝術大学非常勤講師) フランソワーズ・ニロン(Françoise Nigron、デュペレ応用美術学校陶芸科教授)今回のワークショップは、限られた時間の中で焼成まで含めた内容を要請されたので、事前に日本で茶碗を作り素焼きまで行い持参した。また釉薬は低温焼成が可能な釉薬調合を考え現地で調合を行った。三上氏のワークショップでは茶碗の作り方をレクチャーし、施釉方法は刷毛を使い部分的に水で薄め使うなど丁寧に解説した。今回は炭窯を現地の材料で作った。事前に三上氏を中心に山本氏、田中で最適な温度まで上がる構造を考えた。さらにデュペレ応用美術学校のフランソワーズ・ニロン教授と意見を交わし、窯の中に空気を取り入れるロストルの構造や炭による釉薬の影響などを考慮して、窯に詰めた茶碗の外に鉄製の網を巡らすなど細かい技術を考え、それをわかりやすく学生に伝え〔図4〕、共同で窯を制作した。窯の中に茶碗を入れ鉄製の網で茶碗の周りを覆い、炭(フランスではバーベキュー用に使う一般的な炭)を窯に充塡し着火。最初はエアーを絞り温度をゆっくりと上げる〔図5〕。650度でエアーを最大限にして約950度まで一気に上げた。そして釉薬の溶け具合を見ながら茶碗を取り出し、水に浸し急冷させた。約2時間で1つめの茶碗が焼けた。三上氏に続き、田中、山本氏が持参した茶碗を焼いた〔図6〕。三上氏が焼成した茶碗は、酸化と還元の炎のバランスによって変化に富んだ茶碗が焼けた。山本氏の茶碗は、氏が持参した天然の石を現地で砕き、釉薬に調合して施釉したもので、漆黒な表情に出来上がり、フランスの学生の間で羨望の的となった。― 602 ―― 602 ―

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