④在英在仏五姓田派作品調査年代における絵画層に対するピカソの関心(Stratums as Representation: Picassoʼs Interest in the Painting Layers from 1907 to the 1920s)」を発表した。ピカソによる絵画表面の層状化とその層状化された絵画表面を削り落とすなど、絵画の物質性を強調した技法に着目し、そのようなピカソの制作行為の確立を1920年代と仮定し、成立までの過程を歴史的に整理することを試みたのである。また、同時代の自然科学に対するピカソの関心と、絵具層を積み重ね、掘り下げ、最終的にその下層を提示するという彼の制作行為とが交差する様を指摘した。さらに、ピカソによる絵画の層状化のプロセスを明らかにすべく、2017年から東京理科大学中井泉研究室との共同研究により実現した《鳥籠》(1925年、大原美術館蔵)の蛍光X線分析とX線回折の事例と、絵画に対する実験は初めての試みとなる大型放射光施設SPring-8での継続調査について触れた。なお、発表内容は、改めて論稿として電子ジャーナル『Springer Nature』の特集号「Failure Mechanisms in Picassoʼs Paintings」の枠組みで発表する予定である。期 間:2019年6月3日~6月15日(13日間)派 遣 国:英国、ガーンジー(英王室領・独立政府)、フランス共和国報 告 者:神奈川県立歴史博物館 主任学芸員 角 田 拓 朗本調査研究の具体的な活動状況について、時系列順に記述することとする。最初の調査地は、ロンドン市内だった。大英博物館における「マンガ展」において、チャールズ・ワーグマンが横浜で発行していた『ジャパン・パンチ』がどのような位置づけであったのかを確認した。近代マンガの原点と示されつつも、のちのストーリー漫画の大成と比較したとき、その存在は極めて小さく、扱いもそれにならうかのようだった。個人的には洋の東西におけるユーモアの差違など比較検討すべきだったろうと残念に思った。続いて、チャールズの弟の曾孫にあたるエマ・ウィッペル氏宅にて、ワーグマン作品の調査を実施した。2010年にも同様の調査を実施したが、その時点からさらに他の資料も発見されたことをうけ、再調査となった。チャールズの弟でありロイヤル・アカデミー出身の肖像画家でもあるセオドール・ブレイク・ワーグマンが旧蔵していたスクラップブックなどを実見調査した(以上、6月4日)。さらにウィッペル氏がかつてロイヤル・アカデミー図書室の司書だった縁があっ― 613 ―― 613 ―
元のページ ../index.html#627