はない可能性を現段階では考えている。また、以上の作例を見いだし、発注した可能性、趣味性をジェイムスが有していたことが、彼がそのほかに蒐集した日本美術のコレクションのなかに認められるとこのたびの調査で確信された。ミュージアムの展示、またエリック氏宅に保管される作品群を調査したが、内容としては玉石混淆としたものといえる。近世の什器や能面等はより専門の研究者による調査を待たねば正確なことは記せないだろうが、全体の印象として、様々な事物への興味がうかがえた。いわゆる古美術に強く傾倒する趣味性というよりも、たとえば神社や日本家屋を移築した事例から明らかなとおり、実生活全般への広い視野が認められた。先に言及した五姓田派作品のうち、渡辺文三郎サインのある作品やワーグマン作品も、単純な土産品として描くような風俗風景は少なく、あたかも練習のような作例が少なくないことも、ジェイムスの趣味を物語る。また水彩画のうち1点、ワーグマンの作風と似つかわしくないものについて、エリック氏の話によれば、書き込まれた年紀の字体はジェイムスによるものとのこと。ジェイムスもまた絵心があり、日本で制作していた可能性が浮上した。またひとり、新たな来日外国人画家の存在が明らかになったともいえる。さて、このような趣味性、感覚がジェイムスにはあり、曾孫にあたるエリック氏にもまた単純な美術品よりもより生活や歴史、文化につながるモノを好むという性向が継承されていたのも興味深かった。このたびの調査では、日本家屋等が移築されたサマレーズ公園(現在遺されている建築は、池を臨む東屋のみ)なども調査、同島の歴史的背景とあわせてその存在や性格の理解に努めた。あわせて特記すべきは、エリック氏以外にも日本美術のコレクター、あるいは先祖が明治大正期に日本に在住していたという方の作品を見る機会をもてたことである。いわゆる横浜絵に属する画帖や新版画など多種多彩だったが、なかでも驚くべきは、「C. A. Wirgman」のサインのある作品が複数新発見されたことである。そのサインを持つ画家は、チャールズの息子、小澤一郎という名のセミプロ画家である。彼の作品も少なからず日本では流通しているが、大型の作例が複数発見された事例は珍しい。6月11日からは14日までは、パリへ移動し、調査をおこなった。うち2日間はフランス国立図書館が所蔵する五姓田義松による肉筆挿絵本の調査を実施。宮崎克己氏がその作品を発見報告し、報告者も未見ながら複数回言及してきた作品である。同館貴重図書室で実見したその作品は、すでにPDFファイルにてweb上で全ページ公開されている。このたび実見のもと、細部の技術や材質などを中心に調査を実施した。重要だったのは、PDFではわかりづらい肉筆部分と印刷部分との差違だが、実見の結果、― 615 ―― 615 ―
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