⑶会議出席①第12回北欧美術史家協会 コペンハーゲン大会期 間:2018年10月25日~27日(3日間)会 場:デンマーク王国、コペンハーゲン大学報 告 者:桜美林大学 非常勤講師 枝 村 泰 典この度、参加した国際会議「NORDIK XII Copenhagen 2018」(以下NORDIK 2018)は、2018年10月25日から27日までデンマーク・コペンハーゲンで開催された北欧美術史家協会(The Nordic Association for Art Historians)の第12回大会である。大会の開催は3年に一度で、北欧諸国(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)のみならず、ヨーロッパや北米からも多数の研究者が参加し、最新の北欧美術研究の発表や、美術史学における今日的な諸問題の検討が行われる。会場となったコペンハーゲン大学は、1479年に創立された同国最古の大学であり、北欧最古のウプサラ大学(スウェーデン)に次ぐ歴史を持つ。市内に四つのキャンパスを構えるコペンハーゲン大学だが、三つの基調講演と130本を超える口頭発表はすべて、人文学部の拠点である近代的な南キャンパスで行われた。市内の運河を彷彿とさせる水路、開放的なスペースを有する洗練されたガラス建築の教育研究棟や図書館、そして2007年に王立英国建築家協会ヨーロッパ賞を受賞したルンゴー&トランベアグ(Lundgaard & Tranberg)設計による円形型のティットゲン学生寮を擁するこのキャンパスは、建築・デザイン分野におけるデンマークの高名を反映して大変美しく、寒風厳しい季節にあってもその魅力を失うことはなかった。NORDIK 2018の総合テーマは「無題(no title)」であった。モダニズム以降の芸術作品に多いこの題名なき題名は、それ以前の芸術を取り巻く状況への批判を含んでいる。題名の必要性は、教会や貴族階級によるパトロネージの衰退及び美術市場の拡大を見る17-18世紀ヨーロッパにおいて高まった(注1)。国際的な流通の広がりに際し、個別具体的な題名の存在が作品管理を容易にするためである。さらに一般市民の識字率が上昇し、公の場で芸術作品を鑑賞する機会が増え始めると、作品内容を端的に伝えることのできる題名の重要性は決定的となった。こうして題名付けは、芸術の受容に関する前提条件(あるいは儀式)として定着するのだが、「無題」はこれを拒絶する。いわば既存の価値観に対する批判的精神の表れであるこの語を主軸に据える― 618 ―― 618 ―
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