注⑴Ruth Bernard Yeazell, Picture Titles: How and Why Western Paintings Acquired Their Names (Princeton,NJ: Princeton University Press, 2015), p. 13(同テーマに関しては、佐々木健一『タイトルの魔力:作品・人名・商品のなまえ学』中央公論新社、2001年もある)。②アメリカ・ルネサンス学会 2019トロント張が、参加という行為そのものについての省察を促すことを指摘した。1960年代以降、鑑賞者の参加を作品の核として積極的に評価する表現が増えた。《Through》もその一例である。しかし妨害的要素を際立たせるメイレレスの作品は、ブラジルにおいて1960年代から加速する軍事政権の抑圧の現実を思い起こさせる。政治参加の自由を奪われた社会のランドスケープともいえるバリアの重層は、美的関心にのみ基づく参加の肯定に注文をつけ、その内実のより深い検討を訴えているのではないか? 発表の結びでは、こうした問いかけの可能性を提示した。発表後は、他の発表者との意見交換を通して、鑑賞者の進入によって変化を被るバリアの含意(例えば、踏みつけによってガラス片がさらに細かくなり、鋭いエッジが摩擦でこなれることで脅威が減退する可能性の意味等)についてさらなる考察の必要性を認識した。セッション全体を通して印象に残ったのは、物質性をめぐる今日の問題意識の幅広さである。キュレーションを通して物質の声をいかに響かせるかという課題に取り組むプロジェクトの紹介や、デジタル技術の急速な進化によって浮き彫りになるメディア・アートの潜在的な遺物性についての考察、過去(記憶や永続性)と未来(進歩や一過性)の間で揺れ動くデジタル・モニュメントについての議論など、時間や空間の理解に深く関わる物質性の奥深さに触れられたことは大きな収穫であった。大会参加を通して学んだことを、ぜひとも今後の研究に活かしていきたい。期 間:2019年3月17日~19日(3日間)会 場:カナダ、シェラトン・センター・トロント、トロント大学報 告 者: 京都市立芸術大学 美術学部 准教授 深 谷 訓 子 大阪大谷大学 文学部 准教授 今 井 澄 子Renaissance Society of Americaは、1400年~1700年までを研究対象とし、歴史、文学、哲学、美術史などの諸領域が横断的に参加しているアメリカの大規模学会である。年― 620 ―― 620 ―
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