に1度、研究集会を開いているが、2019年の開催地はカナダ、トロントであった。本学会に関し、今井、深谷が既に会員となっていたHistorians of Netherlandish Art (HNA)というネーデルラント美術研究の国際学会からHNA sponsored sessionへの公募が行われた。今井と深谷は、研究テーマとCall for papersの案を付して、その公認セッション枠に応募した。これが採択されたため、そこからCall for papersを公開し、アメリカ、スペイン、オランダ各国からの応募者のなかから3名の発表者(アメリカ、スペインの大学教員)を選定して、セッションを完全に設定した状態で、RSAに改めて応募を行って正式に採択されることになった。選定された発表者のメンバーは、ホセフィーナ・プラナス氏(スペイン、リェイダ大学)、ジェシカ・ヴァイス氏(アメリカ、メトロポリタン州立大学デンバー校)、バーバラ・ハーガー氏(アメリカ、オハイオ州立大学)であった。各々の発表テーマは、「15世紀アラゴン王の時禱書にみるネーデルラントの影響」、「フアン・デ・フランデスのカスティーリャにおけるキャリア」、「ヴァン・ダイクの《哀悼》のスペインにおけるインパクト」である。また、今井と深谷は企画とオーガナイズのみならず、当日の議長を務める予定であった。しかし、2019年2月初旬に、ハーガー氏が、健康上の問題により発表の辞退を申し出てこられた。パネルは発表者3名で構成することが望ましく、既に参加者登録も締め切られた後であったこともあり、2名で議長を務める予定だったところを、今井が発表者に回り、当初の構成を保持することにした。今井の発表テーマは、「スペイン帝国時代のカール5世の《名誉のタペストリー》について」であり、ネーデルラント(ブリュッセル)で制作されたタペストリーが、カール5世(スペイン王としてはカルロス1世)を通じて如何にスペインに伝播し活用されたかを論じることにした。しかしその結果、写本、油彩画、タペストリーと、扱う作品媒体の種類が多様化し、スペインにおけるネーデルラント美術の受容状況をより如実に反映させたバランスの取れたパネルを構成することに成功した。また元々、ハーガー氏の研究対象は、若干年代的にも他の2人と離れており、今井が16世紀前半のカール5世のタペストリー利用を取り上げることにより、年代的にもより意味のあるまとまりを持つことになった。そもそも本セッションの研究テーマは、近年、今井と深谷が共同研究のテーマとして取り組み始めたものである。スペインは15世紀以来多くのネーデルラント出身の芸術家たちや、作品、奢侈品を受け入れてきた。ネーデルラント美術にルーツをもつミヘル・シトウやフアン・デ・フランデスらはカスティーリャの宮廷画家を務め、宮廷― 621 ―― 621 ―
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