鹿島美術研究 年報第36号別冊(2019)
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本コロキウムの研究発表の内容については、西洋で発展してきた美術史学の対象領域の拡大、東アジアにおける様々な美術コレクションの歴史、西洋における東アジア美術の収集の歴史と現状、西洋的な美術概念・用語に対する疑義、アジア美術の展示への東アジアの美術館の様々な取り組みなど実に様々な論点、状況等が提示された。これらの点から見て、今後の東アジアに関わる美術史学(および博物館・美術館行政等)の将来の展開に向けて、様々な示唆が得られる機会となった。また、海外の若手研究者による研究発表が多かった点も今回のコロキウムの特徴の一つと言える。若手の研究発表が報告的色彩を帯びがちであったのに対して、中堅以上の研究者による研究発表の中に刺激的内容を含むものが散見された点も興味深いところであった。この点から見ても、本コロキウムは、国と地域を越えた、大学研究者と博物館・美術館所属の研究者とのより緊密な連携・交流によって将来の研究が進展する可能性を強く感じさせる研究集会であったと評価できる。今回、コロキウムの運営の実務には、首都圏の4大学30名の大学院生の積極的な支援を得たが、これら将来の美術史研究を担う大学院生に対して一定の教育的効果があったことも成果として評価できる。まず、こられの大学院生にとって、今回の経験は国際研究集会と身近に接する絶好の機会となった。こうした国際会議における外国語による国際発信により積極的な意欲を持つようになった学生も少なからずみられた。また研究発表が、国内で行なわれる美術史学会におけるように、必ずしも完成度の高さが要求されるものではなく、中間報告(プログレッシング・レポート)的なものであっても、より大きな研究の一部をなすものであれば評価されることを認識し、自らの中の国際発信へのハードルが多少とも下がった、と感じた学生が散見された点も特筆される。なお、先に触れたように、本コロキウムの発表原稿を収録した報告書をe-book形式で公表する計画である。情報量が多く、会場では咀嚼しきれなかった発表も少なからずあり、e-bookの形式ではあるが報告書の公開は、参加者の一層の理解に資することが期待される。また、ネット上での報告書の公開により、本コロキウムの成果を広く世界に問う機会となるだけでなく、国際的な波及効果を生むことも期待できる。ただし、今回の国際研究集会については以下のような反省点と課題も認められる。まず、プログラムを見ると明らかなように、二つのセッションの規模に大きな違いが認められた。前近代の東アジア地域間の相互交流よりも、近代以降現代に至るまでのアジアにおける美術収集や保存・管理、文化財行政に関わる発表の方が遥かに多かった。― 627 ―― 627 ―

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