CIHA東京コロキウム2019会場風景この傾向は、発表の応募段階ですでに認められた。セッションⅠにあたる前近代の東アジアの異なる地域間での美術交流に関わる研究発表は、応募の段階で少なかった。しかし、セッションⅠについては発表数こそ少ないものの、いずれの内容も高い水準を示していたことから、我が国をはじめとして東アジア各国では、相当な研究蓄積があることがわかる。この領域の応募が少なかった理由を吟味・検討することは、今後のアジア美術研究の国際展開を考える上で、必要なことのように思われる。これに対し、セッションⅡについては、より身近な近現代の事象を対象としたこともあったためか、当初の予想を遥かに上回る応募数があった。しかし、そのかなりの部分が現状報告的なものであり、このため選考において高得点を得られず選に漏れたものも多かった。セッションⅡの研究発表の中に報告の域をあまり出ていないものが散見されたのも、この点が反映されたものと見られる。また、本セッションの性質上、博物館・美術館に所属する研究者による発表も多く、聴衆にも刺激を与える新鮮な情報が多く示された点は評価できるものの、この領域については、豊富なデータを歴史的に位置づけつつ、より学術的に論ずる必要性も感じられ、今後の美術史研究の課題を露呈する結果にもなった。― 628 ―― 628 ―
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