鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 100 ―― 100 ―⑩歌川豊国筆「三代目中村歌右衛門の九変化図屏風」についての考察(1)作品形状(3)表装(4)画題(5)制作年代(6)落款研 究 者:藤沢市藤澤浮世絵館 学芸員  兼 松 藍 子本研究は、未発表である初代歌川豊国(1769-1825、以下「豊国」)の肉筆画「三代目中村歌右衛門の九変化図屏風」の作品調査を行い、主題、画の特徴、大田南畝による狂歌の賛、制作背景等を考察することを目的とする。豊国は歌川豊春の創始した浮世絵画派である歌川派を繁栄させた絵師として知られるが、その作品研究においては錦絵が中心に取り上げられることが多く、肉筆画の研究については十分になされているとは言えない。また本屏風が制作された文化十二年(1815)は豊国および歌川派全体において画風変化があったと考えられる時期であり、その画風変遷を考察する上でも本屏風は重要である。1.作品の基本事項六曲一双の押絵貼屏風〔図1〕。扇面に大田南畝(以下「南畝」)による自筆の狂歌と、豊国による絹本着彩の肉筆画が貼られている。左隻・右隻の各第一扇、第六扇の四扇は、九変化図に関わる南畝の四季の歌が書かれ、左隻・右隻の各第二~五扇の八扇は、三代目中村歌右衛門(以下「歌右衛門」)の変へんげ化舞踊の様子を描いた豊国による肉筆画役者絵で、各扇面に変化舞踊の人物に扮した歌右衛門の舞姿が描かれている。(2)作品の法量高さ:135.9cm幅 :538.0cm(左右両隻を平板に開いたときの両隻合計の幅)厚み:1.6cm本紙:各扇およそ114.3cm×34.0cm押絵貼。大縁は金箔押しの台紙。歌舞伎舞踊「其そのここのえさいしきざくら九絵彩四季桜」上演の様子。文化十二年(1815)半ば頃。画題の上演時期と南畝の作歌の時期から推定。

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