鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 104 ―― 104 ―は赤い着物で、模様は南天、「雛」「舞」「鶴」の金文字散らしとなっている。②右隻・第三扇〔図8〕画題は【老女花見】〔老女〕。春の舞踊。傘と杖を手に持ち、幼子を背負う白髪の老女。腰には浅葱色の腰紐をつけている。③右隻・第四扇〔図9〕画題は【酒屋丁稚】〔丁稚〕。春の舞踊。丁稚が角樽を右手に持ち、右足を高くあげた構図となっている。角樽には「大叶」という文字、地紙に三つ巴紋が描かれている。地紙に三つ巴紋は南畝の狂歌連を示すものである。④右隻・第五扇〔図10〕画題は【雨乞小町】〔雨乞い小町〕。夏の舞踊。小野小町が梅の花と松で装飾された檜扇を右手で高く掲げている。着物には金の絵の具で向かい鶴菱などの模様が施されており、赤の打ち袴を履いている。⑤左隻・第二扇〔図11〕画題は【夕立雷】〔雷〕。夏の舞踊。雷太鼓を背負い、左右の手に金の撥を持った雷神の姿。顔は面であることを示す為、目部周辺が肌の色で書かれている。衣装の毛並みも精密に描写されており、上着には銀絵の具による彩色が見られる。⑥左隻・第三扇〔図12〕    画題は【槍持奴・月の辻君(後ろ面)】〔槍持奴 月の辻君〕。秋の舞踊。頭に手拭いを掛け、左手に茣蓙を持ち、黒い着物を着た辻君(夜鷹)の姿。顔の背部には奴の顔が歌右衛門の似顔によって描かれている。なお、本扇面では美人画として描かれているが、錦絵では辻君の顔はお多福顔の面を被った様子で描かれる場合が多い。⑦左隻・第四扇〔図13〕画題は【江口の君】〔傾城〕。冬の舞踊。普賢菩薩の化身であることを示す象に乗り、左手で文を手にする江口君の姿。立涌に牡丹模様の打掛や龍模様の前帯等、華美で精緻な着物の描写が見られる。髪型は縦兵庫で銀の団扇型簪をつけている。⑧左隻・第五扇〔図14〕画題は【牡丹石橋】〔石橋〕。冬の舞踊。両手に牡丹の花を持ち、左手を高く掲げる石橋獅子の姿。頭上には重ね扇に牡丹の飾りが乗っており、赤頭の毛や衣装の装飾が精緻になされている。なお、第四扇の江口の君が普賢菩薩を示す

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