c, 無背景で、余白部分には三枚全てに役者名「中村歌右衛門」と「此度大坂角の芝居において相勤申候」と記されている。 d, 豊国の落款には「應需」の文字が付されている。 e, 「酒屋丁稚」の角樽には、屏風と同じで南畝の狂歌連を示す「地紙に三つ巴」の紋が配されている。 「後ろ面」は、槍持奴が歌右衛門の似顔となっており、月の辻君が面であるという点が屏風と異なる。 f, ①川口屋宇兵衛版(全九枚か、八枚まで確認、「江口君」は未見。)〔図17〕上演:文化十二年(1815)、江戸・中村座 a, 上演前に「見立」で描かれたと思われる。 b, 全てに「其九絵彩四季桜」の題字と長唄名、「中村歌右衛門」の役者名が記されている。 c, 背景の描写がある。舞台を写したものではなく、風景の描写に近い。 d, 「後ろ面」の槍持奴と月の辻君がそれぞれ別の人物として描かれている。 e, 「夕立雷」は大津絵師の吃又平に扮した歌右衛門と、又平の絵から大津絵の雷が飛び出す様子が描かれており、辻番付の絵に近い。②平野長右衛門版(五枚まで確認)〔図18〕上演:文化十二年(1815)、江戸・中村座 a, 上演後に「中見」で描かれたと思われる。 b, 全てに山東京伝による賛が記されている。 c, 背景は薄紅潰しとなっている。 d, 「文使娘」が羽子板を持つ様子、「酒屋丁稚」の唐人踊り、「夕立雷」の面の様子など、実際の公演を見てから描いたと思われる図柄が見られる。豊国と国貞の錦絵については、同じ長唄を扱ったものでも作品ごとに構図や描かれる場面に違いが見られる。特に上演前に辻番付を参考にしたと思われる「見立」で描かれた作品と、実際の公演を見た後に「中見」として描かれた作品の間には大きな差異が確認された。その上で本屏風について検討すると、役の髪型や衣装、また舞踊の様子などから、本屏風は上演の内容を反映して描かれた「中見」の作品であることが指摘できる。― 106 ―― 106 ―(2)歌川国貞による「其九絵彩四季桜」の錦絵(3)考察
元のページ ../index.html#118