鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 119 ―― 119 ―とある。マネやドガ、ピカソは青年期より関心を持っていた作家だが、今回注目すべきは、グッゲンハイム美術館のメモとして、当時活躍していた芸術家の名前があることだろう。次のページには、このようにある。●アペルアフロアントニオサウラクライン          少年Nathan OliveiraハロルドタウンジャックスミスMARA ベルギー上部の「VARTAT」が何を指し示すのかは未詳だが、それ以降のメモは作家の名前を表している。順に、カレル・アペル、アフロ・バサルデラ、フランツ・クライン、アントニオ・サウラ、ネイサン・オリヴェイラ、ハロルド・タウン、ジャック・スミス、ポル・マラ……これらは、全てがグッゲンハイム美術館の所蔵作家というわけではない。小磯がニューヨークを訪れた当時、グッゲンハイム美術館では第3回「GUGGENHEIM INTERNATIONAL AWARD(グッゲンハイム国際美術展)」が行われており、各国から選抜された新進気鋭の作家たちの作品が展示されていた。小磯がメモしているのは全てその美術展の入賞および展示作家であり、中でも小磯がメモで印をつけて強調していたカレル・アペルは、この年の優秀賞を受賞している。このメモは、小磯が美術館で作品を実見し、興味を持った作家の備忘録と思われる。各作家の出品作情報やその作品画像は、展覧会図録や各国の所蔵情報、オークション情報によって確認出来たが、残念ながら〔図13〕の写真に該当する作家は見つけられなかった。現地を訪れた際、写真の撮影位置は判明したものの〔図14〕、アーカイヴ調査や聞き取り調査では、作品を特定するまでは至らなかったのである。今後も引き続き調査を進めたい。いずれにしろ、小磯にとってこの海外旅行は、当時の流行であったアンフォルメルやアクション・ペインティングの傾向を示す作品を間近で見るという貴重な経験となった。この経験が、第三段階の変化―女性像の思い切った解体や人体をより物としVARTAT〇グッゲンハイム

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