鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
142/688

― 130 ―― 130 ―いコンセプチュアル・アートの理念を強く持っている。コスースにとってオリジナリティあるいは芸術の重要性は、実際の作品ではなく作品のアイディアに存する(注12)。それゆえ、物としての実作は、アイディアとしてのオリジナルに対するコピーということになるだろう。それに対して《日本語の文字》と《英語の単語》は、それぞれエディションが100に限定された版画作品である。また、《ゼロックスで100枚コピーされたうちのこの1枚》は、特定のエディション数をもつ版画作品ではないものの、「100枚」と数が限定されていることが明示されている。それゆえ実作には、コピーでありながらも物としてのオリジナリティが保証されうると捉えることができる。ⅱ)《THE STORY》では、《THE STORY》はどうだろうか。形式上は、ボックナーの4冊のファイルに綴じられたゼロックス作品のようでもあり、ジーゲローブの「ゼロックス・ブック」のようでもある。あるいは、エドワード・ルシェや、多くのコンセプチュアル・アートの作家によって制作されたアーティスツ・ブックに類するものとしても捉えることができる。同作はコピー作品であるから理論上無限に複製可能であるが部数は限定されており、(ⅰ)と同様に物としてのオリジナリティはそこに保証されうると言える。また、同作はオリジナリティ/コピーという問題に留まらず、高松のゼロックス作品の中では特に、前章で言及した視覚詩との積極的な関連性が認められる。つまり、頁をめくるごとにアルファベットの実際の数あるいはその組合せが順列に従って増えてゆく同作は、清水俊彦のいう「ブック・ポエム」と同様の形式をもつ。また「ブック・ポエム」に似た、「ゼロックス・ブック」におけるカール・アンドレの正方形が頁をめくるごとに増えてゆく作品とも類似性をもっている。ⅲ)《この原稿をゼロックスすること》、《COPY》この両作品は、指示が記されたインストラクション作品である。これらの指示書は、例えば実際の展示方法が記されたようなものではなく、受け手に対しそれをコピーする指示が書かれたものである。後者の作品、『季刊フィルム』にて発表された《COPY》では「複写されたこの紙面をさらに複写し、それを誰かに渡してください」というコピーの指示に加え、以下の条件が記されている。註1 下記の4つの件は、実行する人が任意に決定してください。

元のページ  ../index.html#142

このブックを見る