― 176 ―― 176 ―3―BB群では、焼香する従者を二人の尊者が見つめている。一段高い所に坐した尊者が従者の挙動に見入るのは頻出の図像である。なかでも大徳寺本第五十七幅「焼香」には立本寺本に似た異国風の面貌、服装の人物が焼香し、自らの腕に灸を据える。B1尊に類似する作例として、例えば寧波の金大受が十二世紀に描いた「十六羅漢図」のうち第十三尊者幅(東京国立博物館蔵)が挙げられる。軽く開いた口、顎下で杖を握る手の向き、サンダルの形式が一致する。なお第十三尊者の侍者は、柄香爐を執る。B2尊は金剛杵と金剛鈴を執る。金剛薩埵と一致するこの持物をもつ尊者は、十三世紀後半から十四世紀前半の制作と目される高台寺本(注12)の第十三尊者幅、十四世紀の高麗で制作された根津美術館本「釈迦三尊十六羅漢図」、十五世紀末頃の制作と想定される宝寧寺水陸画のうち「右第八 戍博迦尊者 伴諾迦尊者」幅、あるいは金大受本の図像系統に属する太山寺本第四尊者幅などにみられる。これら尊者はいずれも浅黒く禿頭で、またその多くが大きな耳環をつける。3―CC群をなすC1尊と童子Cはともに画面の上部の龍を見遣る図像であり、その姿勢は細部まで相似形をなす。右足を画面側に向けるこの特殊な姿勢は、本法寺本右下部に近似する尊者を見出すことができる。一方で、鹿王院本左幅下方にも立本寺本と近似する姿勢をとる尊者と童子の組み合わせが見られる。ここではむしろ、蛇行しながら画面手前へとそそぎこむ渓流にかかる石橋の上にC群が立脚するという点に注目したい。上面が平らな簡略化された石橋は、大徳寺本F2幅「天台石橋」にみる壮大な景観とは異なり、むしろ泉涌寺本右壁のそれとよく近似する。このようなわが国における解釈が反映された石橋の表現が、西王寺方丈障壁画でも行われていた可能性が想定される。3―DD1尊が恭しげに奉じる瓶(舎利容器を表すカ)に対し、D2尊が礼拝する。同様のようすは鹿王院本左幅にも見られる。そこでは一人の尊者が執る小瓶に対し、三人の尊者と韋駄天が礼拝する。立本寺本と鹿王院本ではともに、瓶を執る尊者に従う侍者は水瓶を携える。また唐獅子の図像は、「学画巻」のうちに酷似するものが認められる〔図11〕。両者
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