― 193 ―― 193 ―⑱茶道具からみる草創期の茶の湯の美意識─連歌師と茶人との交流から検証する─研 究 者:兵庫陶芸美術館 学芸員 萩 原 英 子はじめに本論文は、茶の湯草創期の茶人の美意識を、茶人による茶道具の選択及び創造の過程から考証するものである。その際、本論文が着目するのは、同時代に活躍した連歌師と茶人との交流である。連歌は、中世の文学や芸能など多方面に大きな影響力をもった文化行為の一つである。その連歌を生業とする連歌師は、草庵と呼ばれる家に住み、そこで和歌や連歌を追求した。連歌師の草庵の生活は、その精神を象徴するものだが、これは連歌と同時代に確立した茶の湯と呼ばれる文化行為にも少なからず影響したと考えられる。本論文は、草創期の茶人の美意識を連歌師という当時の文化リーダーとの関係から検証し、茶の湯の美の一端を明らかにするものである。草創期に活躍した茶人は、生活の中で使用する備前焼(岡山県)や信楽焼(滋賀県)のやきものの容器に、茶道具としての美的価値を見出していた。このことは、既存の研究によっても指摘されている(注1)。しかし、従来の研究では、備前焼や信楽焼が茶道具として見出され、使用された事実は注目されてきたが、茶人がそれらに茶道具としての美的価値を見出す過程は看過されてきた。本論文では、これまで見過ごされてきた、茶人が茶道具に美的価値を見出す過程を、茶人や連歌師の草庵の生活の中から捉えていく。本研究において着目する備前焼や信楽焼は、中世の人々が生活の中で使用していた日用品である。それらには、焼成中の偶然によって生じる自然釉以外に釉を用いない焼締、土の質や特性を生かした粗い器肌、黄または茶褐色の色合い、装飾を施さない無骨な造形といった共通点がある。茶人は、それら備前焼や信楽焼の美的価値を「ひゑかるゝ」や「ひへやせる」といった連歌の理念で表現した。そして、それらを茶の湯で使用する水指(釜に湯を足すため、また、茶碗や茶筅をすすぐためのきれいな水を入れておく道具)もしくは建水(茶碗をすすいだ時の水を入れる道具)として使用した。茶の湯における備前焼や信楽焼の使用には、対象の本質にするどく切り込もうとする連歌師の精神性が感じられる。本研究は、こうした茶人による茶道具の選択及び創造の過程が連歌の精神性とどのように関係しているのかということを、1)連歌と茶の湯の関連性、2)茶人によっ
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