― 249 ―― 249 ―㉓ 日本における13~16世紀のガラスに関する調査研究研 究 者:サントリー美術館 学芸員 林 佳 美1.問題の所在本研究では、日本で出土・伝世するガラス製品のうち、13~16世紀の東アジアで作られた製品を主な研究対象とする。対象とする時期範囲はおおよそ鎌倉・室町時代に相当するが、当期はかつて「日本のガラスの歴史の上での暗黒時代」(注1)と評価されたように、現存作例が限られ、国内におけるガラス生産はもちろん、ガラス製品の使用すらも衰退した時期とみなされた。しかし近年、13~16世紀に前後する時期のガラス生産遺跡が発見され、いずれの遺跡においてもカリ鉛ガラス(PbO-K2O-SiO2)という共通の材質が主流をなしていることが明らかになった(注2)。カリ鉛ガラスは平安時代以降に国内で流通するようになり、江戸時代にも生産されたことが知られていたが(注3)、その間にあたる13~16世紀においても、継続してカリ鉛ガラスが生産されていた可能性が高まった。また、宙吹きのテクニックにおいても中世と近世の作例の間の類似が指摘されている(注4)。さらに、アイヌ文化期に相当する13~16世紀の北海道ではガラス製の珠(注5)がまとまって確認されており、自然科学的な調査を通じて本州や中国東北部、ロシア東部との交流関係が論じられている(注6)。このように、検討材料が増加している現状を受け、13~16世紀の日本におけるガラス製品の生産技術や需要をめぐる総合的な検討にもとづく、従来評価の見直しが必要となっている。その際、当期の日本出土・伝世資料には中国等から輸入された製品が含まれる可能性が高いことから、日本だけでなく、中国や韓半島の作例を含めた東アジアの包括的視野からの検討が必要である。2.目的と方法本研究の目的は、13~16世紀の日本におけるガラス製品の生産技術ならびに需要について総合的に検討し、当期日本のガラスに対する従来評価を見直すことである。とくに本研究では、国内の通史的展開というタテの繋がりだけではなく、中国・韓半島とのヨコの繋がりにも注目しながら、東アジアの包括的視野のなかで日本出土・伝世資料の特徴を明らかにすることを目指した。研究方法としては、第一に現存資料と文献史料の集成による全体像の把握を行なった。日本の現存資料についてはすでに一定の蓄積があるため(注7)、本研究では中
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