鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 250 ―― 250 ―国と韓半島を集成対象とした。第二に、日本における現存資料の実見調査を通じ、製作地判別の基準となる造形・技法上の特徴の把握を行った。また、鎌倉市教育委員会のご厚意により、鎌倉市内で出土した中世ガラス資料の分析調査を実施する機会を得た。ガラスの材質は資料の年代や製作地を考察する重要な手がかりとなる。鎌倉市内出土の中世ガラス資料に対する自然科学的な調査は永田勝久氏らの研究以外になく(注8)、まとまった調査は本研究がはじめてである。3.研究成果の概要3-1.中国および韓半島の現存資料の集成13~16世紀の中国・韓半島の現存資料を表に示す。中国についてはこれまで集成ができていなかった元および明を中心に、韓半島については高麗および朝鮮王朝のうち13~16世紀に相当する資料を集成した。中国出土資料の集成にあたっては先行研究に多くを学んだ(注9)。各資料の出典は文末にまとめた。集成した現存資料は44地点88件である(同一遺構で出土した一括資料や同形製品を1件とする)。このうち、元に比定される資料は20地点46件、明は16地点28件、高麗は8地点14点で、朝鮮王朝では16世紀までに位置づけられる資料を確認できなかった。以下におおよその内訳を述べる。容器および容器と推定される破片 17件。イスラムガラスとみなせる1件(37)(以下、丸括弧内の数字は表番号と対応する)を除き、それ以外は東アジアで作られた可能性が否定できない。ただし、ポンテを使用しなければ成形が難しいと考えられる複雑な形態の資料(22、24①)や、甘粛省漳県汪世顕家族墓20号墓出土の盞・托(8)〔図1〕のように南宋までの製品とかけ離れた造形を示す資料の製作地判別には慎重な検討を要する。また、一見すると玉ぎょくにみえる資料が5件ある(23、24②、26、28、29)〔図2〕。図版からの判断ではあるが、これらは乳濁白色や不透明色を呈しており、厚手で、器形は盤ないし碗である。珠類 21件。単色・球形で孔を有するもののほか、複数色を用いて作られたトンボ珠(11、40④)やミカン珠(12⑪、16、18)がある。その他 珠以外の各種装飾品34件、生産関連遺物9件、不明製品7件。装飾品の形態は多様である。容器と同じく玉を模したと資料として圭(10①)や硯(24③)、帯装飾(34、35)〔図3〕があり、装身具には簪(4②、5、6、19⑦、40②)、腕輪(4)、耳飾り(12④、12⑤、14、15①)がある。また、ボタン状製品(30②、31④、40③)

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