鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 251 ―― 251 ―は装飾部材の可能性もあるが、碁石(21①)として使用された例もある。なお、文献史料の集成は十分な成果が得られていない。現存資料からもガラス製品が様々な用途に用いられていたことがうかがえるが、文献史料によって、より生き生きとした当時のガラス需要を知ることができる。今後の課題としたい。3-2.日本出土・伝世資料の実見調査本研究で実見の機会を得た日本出土・伝世資料は以下のとおりである。円覚寺開山箪笥収納品のうち袈裟環(円覚寺所蔵) 開山箪笥には円覚寺開山・無学祖元所用と伝えられる中国製の品々(一部日本製)が収められており、一括して重要文化財に指定された。袈裟環4点のうちのひとつが青色ガラスで作られている。三井記念美術館で開催された「円覚寺の至宝展」展示室内にて観察(注10)。高野山天野社伝来法会所用具類のうち革帯残欠(東京国立博物館所蔵) 高野山の鎮守・天野社(丹生都比売神社)で中世に行われた一切経会に用いられた用具類のひとつ。黒漆塗りの革帯に青緑から青色を呈するガラス製の丸鞆と巡方が糸で綴じ付けられており、巡方1点が革帯から脱落する。銘記等はないが、天保7年(1836)の『高野山学侶宝蔵古器及楽装束図』ですでに現在と同様の破損状態を示しており(注11)、装束類の年代を考慮すると本作も室町時代に遡る可能性がある。令和元年(2019)重要文化財に附指定された。鎌倉市内出土中世ガラス資料(鎌倉市教育委員会所蔵) 鎌倉は中世における中心都市のひとつである。鎌倉市教育委員会が所蔵する、中世の地層ないし遺構から出土した22件を調査した。肥後阿蘇氏浜御所跡出土品のうち玻璃製坏(熊本県教育委員会所蔵) 熊本県上益城郡の県立矢部高校敷地内に位置する浜御所(浜の館)跡は阿蘇神社大宮司家・阿蘇氏の居館である(注12)。昭和49年(1974)に浜御所の庭園跡地で発見された2つの土壙のうち、第一土壙より白磁小型置物2点、金延板1点とともにガラス製坏3点が発見された。浜御所が島津氏によって落去する天正14年(1586)を下限年代とする。昭和61年(1986)重要文化財に指定された。大友府内町跡出土ガラス資料(大分県立埋蔵文化財センター所蔵) 大分県大分市に位置する中世大友府内町跡は大友氏の拠点として栄えた都市である(注13)。大分県立埋蔵文化財センターが所蔵する中世(戦国時代を主とする)のガラス資料64件を調査した。調査対象の一部は令和元年(2019)に「大分県府内大友氏遺跡出土品」として重要文化財に指定された。

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