― 262 ―― 262 ―姿が描かれるが、円覚寺本ではその二人の後ろに一人、さらにその先であいさつを交わす羅漢二人が加えられている。さらに画面上半分、大徳寺本の浴室の前では入り口の簾をまくる羅漢の前に黒い杖を持つ羅漢と横を向いて右手を差し出す羅漢とが立ち、後ろには荷物を手にした童子が控えている。円覚寺本ではその二人のうち、杖を持つ羅漢が前方に移動し、その背後に二人の羅漢が追加されている。羅漢の位置をずらすなど、人数を追加するための変更はあるが、円覚寺本「浴室」は基本的に大徳寺本の構図を崩していないと言える。細部に関しても、浴室から湧く湯気の形状や中央の卓に置かれた茶器類など器物の描写も、大徳寺本にかなり忠実であることが分かる。彩色においても、むろん相違点はかなり多いものの、羅漢や童子が纏う衣服はおおむね大徳寺本を踏襲している。東福寺本「浴室」も、基本的な構図は大徳寺本に則っているが、羅漢の配置は東福寺本と全く異なっている(注8)〔図2〕。画面の下方で歩を進める二人の羅漢の間に二人追加され、その先の階段を上がる羅漢一人が描き加えられている。浴室の前で簾を開く羅漢の前には元の二人に加えて、背後に一人の羅漢が加わっている。さらに細部を詳しく見ていくと、画面中央、茶具が置かれた机の横の座具と思しき器物が金盥のような形状に替わっていることを始め、浴室の組み物下方部分の構造が異なるなど変更点が多い。これらの相違は彩色についても同様で、大徳寺本画面下方の羅漢二人のうち、両手を胸の前で合わせた羅漢は青色の直綴をまとった上に黄色の五條袈裟を掛け、その隣で両手を広げる羅漢は、茶色の直綴に緑色の五條袈裟を着けている。東福寺本では同じ図像の羅漢が金泥で濃茶色の直綴に茶と白色の五條袈裟を、もう一人は金泥の小花文様を散らした濃茶色の直綴の上から茶と白の五條袈裟を掛けている。浴室にかかった簾の青色の布地や朱塗りの建物など、共通する点もあるものの、概して東福寺本は大徳寺本よりも全体にコントラストが強く、文様を取り入れるなど彩色の指向に大きな違いが認められる。続いて、「食事」の場面を同様に比較検討してみたい。円覚寺本・東福寺本の「食事」の画幅(注9)〔図3、4〕は大徳寺本「展鉢」の構図に倣っているが、加えられた羅漢や細部の描写を確認すると「浴室」とは異なり、両本はほとんど同じ図様であることが分かる。大徳寺本「展鉢」では画面中央に食事のために袋に包まれた鉢を取り出す三人の羅漢が、向って右側には二人の羅漢が坐し、左端には食事の開始等を合図するために槌を打つ人物(維那)、右下には給仕の童子、そして画面上方には三頭の鬼が描かれる。「食事」の場面における大徳寺本と円覚寺本・東福寺本との図様の異同についてはすでに指摘しているため詳細は省くが、やはり羅漢が追加されてい
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