鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
325/688

― 313 ―― 313 ―「青の時代」における絵画制作のプラクティスネ『ピカソ 1900-1906年』(Pierre Daix, Georges Boudaille, Joan Rosselet, Picasso 1900-1906. Catalogue raisonné de lʼœuvre peint, Neuchâtel: Ides et Calendes, 1966.)を基本のリストとし、カタログ第6章「青の時代へ パリ1901年」から第12章「パリ1905年」に収録されている油彩作品91点と(注2)、同レゾネに未掲載であるが、同時代の作品と認めうる油彩画8点とした。ピカソの絵画制作におけるリサイクルについて、本稿では「Ⅰ.支持体の扱い」「Ⅱ.画面の変更」に分類して例示する。参照する作品については、作品名に制作年と先述のカタログ・レゾネの番号を付し、作品データの詳細については、本稿末の「参考作品」に掲載した。Ⅰ.支持体の扱い「青の時代」のピカソは、その油彩画制作において、他に類を見ないほど頻繁に、支持体の向きを90度、あるいは180度変える、または裏返して、描き直しを行った。新たに描き直す画題に適した向きへと支持体を回転させ、再利用したと考えられる。他人が使用したカンヴァスの再利用も確認されている。Ⅰ-1.支持体の回転:ピカソが描いた絵画の上に、画家自身が別の構図や主題の絵を描き直す。全体の描き直しや、部分的な加筆等を行う。描き直す際に、支持体の向きを90度変えて画面の縦横比を変更して制作する、または180度回転させて描き直した。確認された作例を次に示す。90度回転:《青い部屋(浴槽)》(1901年秋、VI.15)、《バルセロナの屋根》(1903年、IX.2)〔図4〕、《悲劇(海辺の貧しき人々)》(1903年、IX.6)〔図5〕、《貧しき家族(カフェの二人)》(1903年、IX.9)、《ラ・ヴィ(人生)》(1903年、IX.13)、以上、5点。180度回転:《ル・ボック(サバルテスの肖像)》(1901年、VI.19)、《アイロンをかける女》(1904年春、XI.6)、《海辺の母子像》(1902年、VII.20)〔図3〕。縦型のカンヴァスを使用した場合のみに認められ、横型のカンヴァスの例は未確認である。以上3件。多方向:《悲劇(海辺の貧しき人々)》(1903年、IX.6)〔図5〕は、板に描かれた作品である。下層に油彩の風景画が認められる他、最下層にさまざまな向きに描かれた複数のデッサンとメモ書きが残されている。ワシントン・ナショナル・ギャラリーのア

元のページ  ../index.html#325

このブックを見る