― 314 ―― 314 ―ン・ヘーニングスベルトの研究により、画家の身辺に本支持体が据え置かれ、日常的にデッサンや記憶すべき情報を描き留めるための備忘録として使用されたことが解明されている(注3)。Ⅰ-2.両面の使用:ピカソが描いた絵画の支持体の裏面に、画家自身が別の絵画を制作し、両面に絵画を残した。裏の未使用面を活用し、表裏の両画面を保存できる利点がある。《シニョンを結った女》(1901年、VI.23、裏面:V.69《大きな帽子の少女》1901年)、《アブサントを飲む女》(1901年秋、VI.24、裏面:〔女性の顔〕)、《腕を組む女》(1901年秋、VI.25、裏面:《桟敷席の女》1901年、V.71)。以上、3件確認された。この他、《ラ・ゴムーズ》(1901年、VI.18、裏面:〔マニャックの肖像〕、1901年)、の裏面には、上下逆の方向に、このカンヴァスが捧げられたペレ・マニャック像の戯画と献辞が付された。ピカソのアトリエを撮影した写真には、イーゼルに載せられたカンヴァスの裏面に、絵が描かれていることが判別される〔図1〕。本写真によると、画家はカンヴァスを裏返し、木枠に張り直して再利用中であり、裏面の使用は画家のプラクティスとして定着していたことが追認できる。Ⅰ-3.カンヴァスの変形:描き直す際、あるいは仕上げの際に、カンヴァスを切るなどし、支持体を変形した場合が2件確認されている。《酒場の二人の女》(1902年、VII.13)、《シュミーズを着た女》(1905年頃、XII.5)〔図7〕。Ⅰ-4.他人が使用したカンヴァスのリサイクル:ピカソと特定されない画家が描いた絵画の上ないし裏面に、ピカソが自作を仕上げた。《女性の頭部》(1903年、IX.16)は、友人のジョアン・ゴンザレスのサインが入った風景画の上に、カンヴァスを90度回転させて描かれている。オンタリオ・アート・ギャラリーとノースウェスタン大学の研究チームにより、《膝まずく女》(1902年初頭、VII.5)は、風景画を90度回転させた上に描かれた作品であり、風景画はピカソ以外の画家による作品であると考えられている(注4)。《役者》(1904-1905年、XII.1)もまた、作者不明のカンヴァスの裏面に描かれた。以上、計3件。
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