鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 338 ―― 338 ―(兵庫県立図書館蔵)に長春閣と川崎美術館の外観写真が掲載されていることも、この行啓を契機として長春閣が披露されたことをうかがわせる。ただし、目録をみるかぎり、第8回展観では展示室として長春閣が掲出されていないため、作品展示は川崎美術館のみであった可能性がある。第8回展観は4日間の会期が予定されていた(注15)。しかしながら、同年に神戸市でペストが発生し、明治34年まで日本初の流行をみせた。この影響を受けて、11月18日には感染防止のために興行・集会・祭礼・供養・集会等を禁じる兵庫県令が発布・施行された(注16)。これにより、第8回展観は以下の通り、急遽11月19日をもって終了することとなった。令和2年(2020)は新型コロナウイルス感染症に伴う感染症で国内外の美術館・博物館が臨時休館となったが、同様の事例が明治時代の美術館でも発生していた。明治32年11月21日「大阪毎日新聞」「(広告)都合ニ依リ美術館ヲ閉ヅ  神戸布引 川崎美術館」「 ●川崎氏の美術館 神戸布引なる川崎正蔵氏の美術館は、目下同地に黒死病発生せしを以て、一昨日限り本年は閉館したりと云ふ」明治32年11月21日「大阪朝日新聞」「 ●展観雅集 [中略]▲既記せし神戸布引川崎美術館の陳列はペスト発生の折柄とて一昨日閉館せり」■第9回展観第9回展観は新聞記事を未発見のため、開催時期が不明だが、陳列品目録(島根大学附属図書館[桑原文庫]蔵)が現存する。美術館玄関に展示された「宝玉七宝大花瓶」について「右大花瓶ハ明治三十三年仏国巴里万国大博覧会ニ出品シテ大章ヲ受領セシモノト同形ニテ唯タ其模様ニ少シク異ル所アルノミ」と記載されることから、明治34年以降の開催と想定される。本目録の旧蔵者・桑原羊次郎は、明治34年12月に合名会社鴻池銀行神戸支店長に就任、翌35年には兵庫県知事・服部一三について浮世絵蒐集と研究を始めたという。明治41年初頭には桑原は鴻池銀行を退職しており、この頃を第9回展観の下限と考えておく(注17)。

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