鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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むすびに― 342 ―― 342 ―・ 『川崎美術館第拾参回陳列品目録 為徳光院殿豁堂恵然大居士第七回忌追福開文庫[小林家文庫]蔵) 1冊館』(個人蔵) 1冊このうち、応挙の旧帰雲院障壁画については、もと南禅寺塔頭帰雲院で使用された障壁画であり、川崎正蔵が入手後、川崎美術館の障壁画として使用していた(注23)。襖の表裏の組み合わせや、『陳列品目録』『長春閣鑑賞』の記述を総合すると、川崎美術館の1階は〔図1〕のような平面プランが想定される。2階の平面プランも含めて未だ不明点もあるが、現存する障壁画から上之間・広間・三之間の3室について復元可能であることが判明した。今回の調査研究では、次の四点の成果を得られた。一点目は、第1回~第8回・第12回・第13回というように、大半の展観の会期が明らかになったことである。美術館活動の最も基礎的な情報である展観の開催時期は、同時代の新聞記事等からたどることしか出来ず、膨大な記事のなかから雲をつかむような作業であるが、結果として多くの会期が判明したのは収穫であった。同時代の新聞記事等の探索を継続し、全ての会期を明らかにしたい。二点目は、第8回展観がペスト流行に伴い、会期途中で閉幕したことが判明した点である。新型コロナウイルス感染症の流行に伴う緊急事態宣言の発令、美術館・博物館の臨時休館という現代の出来事と共通しており、感染症の流行が美術館をはじめとする社会活動に大きな影響を及ぼすことを改めて考えさせられる。三点目は、3冊の陳列品目録の調査が実現し、展観の詳細が把握できた点である。目下、『長春閣鑑賞』や二度の売立目録との対象作業を進めているが、膨大な量があるため、整理が完了した後、機会を改めて詳細を発表したい。四点目は、川崎美術館で使用された応挙の旧帰雲院障壁画の調査により、美術館1階の平面プランが部分的に推定できた点である。今後は、陳列品目録や展観に関する新聞記事と照らし合わせることで、各展観、各部屋の展示がどのような趣向をもってなされていたのかを明らかにしていきたい。本研究は、未だ半ばではあるが引き続き取り組んでいくことで、将来的な展覧会の開催を実現できるよう努めていく次第である。

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