鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 349 ―― 349 ―各紙面のテーマについては、No.1~3は英文の書き込みから、書き込みのないNo.4~16は推定とした。日本の考古遺物が石や金属などの材質によって分けられ、煮炊きや飾り、葬送、武具といった用途によってまとめられている。現代の考古学上の時代順と異なり、弥生時代の青銅器が古墳時代の埴輪より後に配置されている。本作品は、比較的早い時期に作られた、石器時代から古墳時代に至る体系的な日本考古学の標本といえる。制作背景本作品の制作過程は、東京国立博物館が所蔵する『明治二十六年重要雑録一』に確認することができる。このうち「閣龍世界博覧会関係書類 索引」の第四号の、帝国大学総長文学博士加藤弘之から帝国博物館総長九鬼隆一に宛てられた明治25年(1892)5月21日付の伺い文書では、シカゴ万博に出品する人類学標本に重複がないよう、出品物の照会を行っている。この資料から帝国博物館側の出品構成と、出品物の調達の実務を、帝国博物館側は依嘱の三宅米吉が(注3)、帝国大学側は理科大学技手の若林勝邦が行っていたことがわかる。「帝国大学理科大学人類学ヨリ閣龍世界博覧会へ出品略目録」によると、帝国大学側の出品は〔表2〕の通り。日本の先史時代を石器と金属器の2時代に分けて、最後に各国の関係資料を示している。図のみで実物資料は含まれていない。これに対し、帝国博物館側の出品構成は、「出品本目録」(古物学物品)〔表3〕の通り。実物資料が中心で、標本図は最後に添えられている。本論で研究対象とする《日本考古学水彩画》は、目録の最後に記された「考古学標本図觧額」に該当する。実際の目録に網掛け表現はないが、本表の網掛け部分、A壱号~八号、E、F、「考古学標本図觧額」の上には、「戻ラズ」の注記がある。別の目録、「帝国博物館出品寄贈品目録」(臨時博覧会事務局経費ニ係ル分)によると、網掛け部分の品の寄贈先はペンシルバニア大学である。また、ペンシルバニア大学へは、「考古学標本図觧額」(「考古学標本図解題(欅額十六枚共)一組」と表記)のほか、「古物学標本説明書四三頁」も寄贈されている。ペンシルバニア大学博物館は、帝国博物館のラベルの付いた縄文土器片や石器も所蔵しているが、「古物学標本説明書四三頁」に該当する資料は現在のところ確認できていない。《日本考古学水彩画》(出品本目録での名称は「考古学標本図觧額」)の作者に関しては、東京国立博物館が所蔵する請求書に確認することができる。本絵図の代金とし

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