狩野雅信下関市立美術館本岡田美術館本狩野邦信個人蔵本個人蔵本遠山記念館本林原美術館本狩野養信法然寺本東京国立博物館本ブリンマー・カレッジ本石山寺本相国寺本狩野栄信大正9年売立掲載図テキスト場面概略帖名〇〇〇〇〇〇〇〇〇 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇05若紫07紅葉賀17絵合21少女23初音24胡蝶34若菜上その他― 381 ―― 381 ―源氏、北山の僧都の坊で、逃げた雀を追って縁先に出た紫の君を垣間見る。朱雀院行幸の日、源氏、頭中将と共に青海波を舞う。朝拝に参内する源氏、雛遊びに熱中している紫の君のもとに立ち寄る。藤壺、絵合せを催す。女房たち、二手に分かれて、優劣を論じ合う。冷泉帝御前での絵合せ。二手に分かれ、絵を沈や紫檀の箱に入れ、人々居並ぶ。五節の舞姫を務める惟光の娘に付き添う童女を選び出すため、源氏は美しい女童たちを並び歩かせる。明石の姫君のもとへ明石上から新年を祝う贈り物が届き、源氏のかたわらで返事を思案する。庭の築山では童女や下仕えらが小松を引いて遊ぶ。秋好中宮の季の御読経に、紫の上より鳥と蝶の装束をした童女を使者として、金・銀の瓶に挿した桜・山吹が贈られる。玉鬘、源氏の四十の賀を祝う。紫の上、源氏四十の賀のための薬師仏供養をし、二条院で盛大な賀宴を催す。 夕霧と柏木は、入綾を舞う。*テキストは、下記の文献より引用した。阿部秋生等校注『新編日本古典文学全集22 源氏物語3』小学館 1996年 初音:145・146頁 胡蝶:171・172頁 乙女:60頁阿部秋生等校注『新編日本古典文学全集20 源氏物語1』小学館 1994年 若紫:206頁 紅葉賀:314・315・320・321頁阿部秋生等校注『新編日本古典文学全集21 源氏物語2』小学館 1995年 絵合:380・381・385・386頁阿部秋生等校注『新編日本古典文学全集23 源氏物語4』小学館 1996年 若菜:55~57・93~95頁日もいと長きにつれづれなれば、夕暮のいたう霞たるにまぎれて、かの小柴垣のもとに立ち出でたまふ。人々は帰したまひて、惟光朝臣とのぞきたまへば、ただこの西面にしも、持仏すゑたてまつりて行ふ尼なりけり。簾すこし上げて、花奉るめり。中の柱に寄りゐて、脇息の上に経を置きて、いとなやましげに読みゐたる尼君、ただ人と見えず。四十余ばかりにて、いと白うあてに痩せたれど、つらつきふくらかに、まみのほど、髪のうつくしげにそがれたる末も、なかなか長きよりもこよなういまめかしきものかな、とあはれに見たまふ。きよげなる大人二人ばかり、さては童べぞ出で入り遊ぶ。中に、十ばかりやあらむと見えて、白き衣、山吹などの萎えたる着て走り来たる女子、あまた見えつる子どもに似るべうもあらず、いみじく生ひ先見えてうつくしげなる容貌なり。髪は扇をひろげたるようにゆらゆらとして、顔はいと赤くすりなして立てり。「何ごとぞや。童べと腹立ちたまへるか」とて、尼君の見上げたるに、すこしおぼえるところあれば、子なめりと見たまふ。「雀の子を犬君が逃がしつる、伏籠の中に籠めたりつるものを」とて、いと口惜しと思へり。垣代など、殿上人、地下も、心ことなりと世人に思はれたる有職のかぎりととのへさせたまへり。宰相二人、左衛門督、右衛門督左右の楽のこと行ふ。(中略)木高き紅葉の蔭に、四十人の垣代いひ知らず吹きたてたる物の音どもにあひたる松風、まことの深山おろしと聞こえて吹きまよひ、色々に散りかふ木の葉の中より、青海波のかかやき出でたるさま、いと恐ろしきまで見ゆ。かざしの紅葉いたう散り過ぎて、顔のにほひにけおされたる心地すれば、御前なる菊を折りて左大将さしかへたまふ。日暮れかかるほどに、さるいみじき姿に、菊の色々うつろひえならぬをかざして、今日はまたなき手をつくしたる入綾のほど、そぞろ寒くこの世のことともおぼえず。もの見知るまじき下人などの、木のもと岩がくれ、山の木の葉に埋もれたるさへ、すこしものの心知るは涙落としけり。男君は、朝拝に参りたまふとて、さしのぞきたまへり。「今日よりは、おとなしくなりたまへりや」とてうち笑みたまへる、いとめでたう愛敬づきたまへり。いつしか雛をしすゑてそそきゐたまへる、三尺の御厨子一具に品々しつらひすゑて、また、小さき屋ども作り集めて奉りたまへるを、ところせきまで遊びひろげたまへり。(中略)出でたまふ気色ところせきを、人々端に出でて見たてまつれば、姫君も立ち出でて見たてまつりたまひて、雛の中の源氏の君つくろひたてて、内裏に参らせなどしたまふ。中宮も参らせたまへるころにて、かたがた御覧じ棄てがたく思ほすことなれば、御行ひも怠りつつ御覧ず。この人々のとりどりに論ずるを聞こしめして、左右と方分かたせたまふ。(中略)まづ、物語の出で来はじめの親なる竹取の翁に宇津保の俊蔭を合はせて争ふ。(中略)絵は巨勢相覧、手は紀貫之書けり。紙屋紙に唐の綺を陪して、赤紫の表紙、紫檀の軸、世の常のよそひなり。(中略)白き色紙、青き表紙、黄なる玉の軸なり。絵は常則、手は道風なれば、いまめかしうをかしげに、目も輝くまで見ゆ。右はそのことわりなし。左右の御絵ども参らせたまふ。女房のさぶらひに御座よそはせて、北南方々分かれてさぶらふ。殿上人は後涼殿の簀子におのおの心寄せつつさぶらふ。左は紫檀の箱に蘇芳の華足、敷物には紫地の唐の錦、打敷は葡萄染の唐の綺なり。童六人、赤色に桜襲の汗衫、衵は紅に藤襲の織物なり。姿、用意などなべてならず見ゆ。右は沈の箱に浅香の下机、打敷は青地の高麗の錦、あしゆひの組、華足の心ばへなどいまめかし。童、青色に柳の汗衫、山吹襲の衵着たり、みな御前にかき立つ。上の女房前後と装束き分けたり。召しありて、内大臣、権中納言参りたまふ。その日、帥宮も参りたまへり。かしづきなど、親しう身に添ふべきは、いみじう選りととのへて、その日の夕つけて参らせたり。殿にも、御方々の童、下仕のすぐれたるを、と御覧じくらべ、選り出でらるる心地どもは、ほどほどにつけて、いと面だたしげなり。御前に召して御覧ぜむうちならしに、御前を渡らせてと定めたまふ。棄つべうもあらず、とりどりなる童べの様体、容貌を思しわづらひて、「いま一ところの料を、これより奉らばや」など笑ひたまふ。ただもてなし用意によりてぞ選びに入りける。姫君の御方へ渡りたまへれば、童、下任など御前の山の小松ひき遊ぶ。若き人々の心地ども、おき所なく見ゆ。北の殿よりわざとがましくし集めたる鬚籠ども、破子など奉れたまへり。えならぬ五葉の枝にうつる鶯も思ふ心あらんかし。「年月をまつにひかれて経る人にけふ鶯の初音きかせよ音せぬ里の」と聞こえたまへるを、げにあはれと思し知る。事忌もえしたまはぬ気色なり。「この御返りは、みづから聞こえたまへ。初音惜しみたまふべき方にもあらずかし」とて、御硯取りまかなひ、書かせたてまつらせたまふ。今日は、中宮の御読経のはじめなりけり。やがてまかでたまはで、休み所とりつつ、日の御装ひにかへたまふ人々も多かり。障りあるはまかでなどもしたまふ。午の刻ばかりに、みなあなたに参りたまふ。大臣の君をはじめたてまつりて、みな着きわたりたまふ。殿上人なども残るなく参る。多くは大臣の御勢ひにもてなされたまひて、やむごとなくいつくしき御ありさまなり。春の上の御心ざしに、仏に花奉らせたまふ、鳥、蝶にさうぞき分けたる童べ八人、容貌などことにととのへさせたまひて、鳥には、銀の花瓶に桜をさし、蝶は、黄金の瓶に山吹を、同じき花の房いかめしう、世になきにほひを尽くさせたまへり。南の御前の山際より漕ぎ出でて、御前に出づるほど、風吹きて、瓶の桜すこしうち散り紛ふ。いとうららかに晴れて、霞の間より立ち出でたるは、いとあはれになまめきて、見ゆ。わざと平張なども移されず、御前に渡れる廊を、楽屋のさまにして、仮に胡床どもを召したり。正月二十三日、子の日なるに、左大将殿の北の方、若菜まゐりたまふ。かねて気色も漏らしたまはで、いといたく忍びて思しまうけたりければ、にはかにて。え諫め返しきこえたまはず。忍びたれど、さばかりの御勢ひなれば、渡りたまふ儀式など、いと響きことなり。南の殿の西の放出に御座よそふ。屏風、壁代よりはじめ、新しく払ひしつらはれたり。うるはしく倚子などは立てず、御地敷四十枚、御褥、脇息など、すべてその御具ども、いときよらかにせさせたまへり。螺鈿の御厨子二具に、御衣箱四つ据ゑて、夏冬の御装束、香壺、薬の箱、御硯、泔坏、掻上の箱などやうのもの、内々きよらを尽くしたまへり。御挿頭の台には、沈、紫檀を作り、めづらしき文目を尽くし、同じき金をも、色使いなしたる、心ばへありいまめかしく、尚侍の君、もののみやび深くかどめきたまへる人にて、目馴れぬさまにしなしたまへり。おほかたのことをば、ことさらにことごとしからぬほどなり。(中略)幼き君もいとうつくしくてものしたまふ。尚侍の君は、うちつづきても御覧ぜられじとのたまひけるを、大将の、かかるついでにだに御覧ぜさせむとて、二人同じやうに、振分髪の何心なき直衣姿どもにておはす。(中略)沈の折敷四つして、御若菜さまばかりまゐれり。御土器とりたまひて小松原末のよはひ引かれてや野辺の若菜も年をつむべきなど聞こえかはしたまひて、上達部あまた南の廂に着きたまふ。二十三日を御としみの日にて、この院は、かく隙間なく集ひたまへる中に、わが御渡しの殿と思す二条院にて、その御設けはせさせたまふ。(中略)舞台の左右に、楽人の平張うちて、西東に屯食八十具、禄の唐櫃四十づつつづけて立てたり。未の刻ばかりに楽人参る。万歳楽、皇麞など舞ひて、日暮れかかるほどに、高麗の乱声して、落蹲の舞ひはつるほどに、権中納言、衛門督おりて、入り綾をほのかに舞ひて、紅葉の蔭に入りぬるなごり、飽かず興ありと人々思したり。表1 養信周辺の源氏物語図屏風 場面とテキスト〇〇及び藤裏葉帖夕霧、雲居の雁との結婚許される及び若菜帖女楽
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