― 409 ―― 409 ―明だが、壁画で生計を立てる人材は育成され、漫画のようなメキシコ系の女性像を描くSand One(1991-)など、次世代を担う女性画家の活躍が指摘できる。本稿では「新たな壁画」として、2000年に東部ロサンゼルス出身の画家パウル・ボテジョ(1961-)が、若者たちとともにシティ・テラス公園で制作した《内なる資源》を紹介する〔図5〕(注5)。この壁画は《内なる資源》という名の通り、内部の可能性に焦点が当てられている。壁画中央には骸骨の首輪をつけた女性らしき人物が祈りを捧げており、女性は光を放っている。女性の腹部にはバラを抱えた猿がいる。鳥も飛んでいる。両端には熊、そして犬と牛もいる。動物たちは何かを守っているようにもみえる。この集団の背後には馬に乗るカウボーイ風の男性が二人、その背後には象もいる。女性の足元には、サボテンと、色とりどりの花々がある。手前には水晶のような石も埋め込まれている。左脇には子供が、今まさに小さな植物を植えようとしている。右端にも男児がいて、右腕をまっすぐ突き出している。中央の女性は孤立しておらず、女性の背後には女児、メガネをかけた老人、そして男性がいる。視点をさらに横にずらすと、二人の透明な巨人が目に入る。左端は女性のようで、内部から木を生み出しているようだ。月のような球体を抱えて、左腕を大きく突き出している。前述の腕を伸ばした男児と見つめ合っているようである。左の巨人は男性のようで道具を持ち、どこかをながめている。壁画内部は公園のようで、川が流れており、左端には芝生と、そこで寛ぐ人々いる。右端には陰陽の太極図が入った建物などがある。建物の上には透明な子供たちが三人、パソコンを使ったり、本を読んだりしている。その上部には下弦の月が出ており、その下部ではバスケットボールをしようとする子供たち、小さな地球を持って歩き出す子供がいる。二人の子供は歩行補助具をつけている。公園は多くの木々に囲まれており、豊かで落ち着いた雰囲気である。壁画の最背面には、メキシコの古代都市テオティワカンを思わせるピラミッドがあり、上部には太陽が輝いている。ラテンアメリカ美術史家のホーリー・バーネット=サンチェスらは、この壁画について「近隣の暴力に対する平和的なオルタナティブを提示している」と述べ、「都市のジャングルのなかにある調和」と評している(Barnet-Sanchez and Dreshcer 2016:282)。その批評の通り、《内なる資源》からは、ギャング闘争が絶えることがない東部ロサンゼルスにおける平和への希求と、異なる他者や自然との共生の願いを読み取ることができる。
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