鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 429 ―― 429 ―4.唐前期第1期の千仏図樊氏らの論考で唐前期第1期に置かれる窟は、第401、60、203、204、206、373、375、381、283、287、57、209、322、329、386窟の15窟である(注9)。明確な記載はないが、窟の造営順に並べられたと推察される。第401窟は隋から継続して造営された窟、第329、386窟は唐前期第1期以降も造営が続けられた窟とされる。〔表1〕に唐前期第1期諸窟の千仏図の特徴をまとめる。唐前期第1期諸窟では、第209窟を除くすべての窟において天井および側壁に千仏図が描かれている(注10)。側壁では東西南北の4壁、あるいは東西のどちらかを除く3壁に配置されるのが主流であり、第322窟では南北の2壁、第329窟では西壁のみに描かれいてる。千仏図の組み合わせは、北周以降に採り入れられた4体一組とする形式が主流である。唐前期第2期以降も造営が続いたとされる第386窟では、4体一組と2体一組が併存している。千仏図の設計は、斜行方向が一方向に連なるもの(同一方向設計)、南北で対称とするもの(対称設計)、そして斜行方向を壁面の中央で合わせるもの(△型設計、▽型設計)がある。なお、第60窟の側壁は1列・1段であるため、斜行方向は示されていない。また、第203、204、373、375、381窟では2種類の光背配色(交差型と一方向型)が使い分けられている。これは北朝期から用いられてきた千仏図の描写の特徴であり、これらの窟ではその伝統を踏襲したことが示唆される(注11)。5.第57窟の△型千仏図唐前期第1期諸窟の内、第204、373、375、57、322、329窟の6窟に、△型設計の千仏図が描かれいてる〔図1〕。これは、壁面中央の左右において斜行方向と光背配色の双方を対称的に示した描写である。左右の配色によって精緻な対称性を示す千仏図の祖型は、隋第2期の第420窟に辿ることができるが、第420窟では中央にて斜行方向が合流しておらず、三角形を呈していない(注12)。△型設計の千仏図は唐前期第1期に登場した新たな描写である。△型設計の中で最も完成度が高いのは、第57窟西天井西面(西披)に描かれた千仏図である〔図1〕。この千仏図は、趺坐仏の頭、肩、膝が直線上に位置するように斜めの下線を入れて描写されている。斜めの下線を入れる描写は第57窟以外には認められず、△型設計の千仏図の導入において第57窟が大きな役割を果たしたことが窺える。ここで、第57窟において、△型設計の千仏図が導入された背景について考えてみたい。第57窟は初唐を代表する窟であり、南壁の樹下説法図中に描かれる通称「美人菩

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