鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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注⑴後述「地獄寺」の定義とする。椋橋彩香『タイの地獄寺』青弓社、2018年、p. 53⑵立体的な地獄表現を有する寺院数は統計があるわけではなく、また2020年現在においても新設― 513 ―― 513 ―制作についてどう捉えているのかが本研究の次なる課題であった。今回の調査では、「教育のため」という回答に加え「訓戒のため」が13%となり、合わせて半数近い43%が「①訓戒・教育の場とする」という寺院側の意図に合致する結果となった。ただし、調査対象寺院の母数が異なるので、現時点ではあくまでひとつの結果として受け止めたい。さいごに、ワット・パイローンウアの地獄空間を訪れた人々について、アンケート結果では年齢が21~30(31%)、31~40(26%)、41~50(18%)の参拝者が多くみられた。この結果に加え、前述のとおりアンケート対象者のうち45%以上が子供を連れていた点を鑑みると、子供を有する親という立場での来訪が裏付けられる。また同行者に関する回答結果として「家族」が全体の78%と大きな割合を占めていた点、さらに参拝者の半数以上が県内・隣県からの来訪であった点なども勘案すると、ワット・パイローンウアに代表されるタイの地獄寺は、日本で認識されている「珍スポット」「B級スポット」というイメージとはかけ離れた機能をもち、そこには「家族」「子供」「教育」などの要素が不可欠であると結論付けたい。されている場合がある。よって、実際は70か所をはるかに上回ると推測できる。⑶アヌクーン・パンヤーコーン師へのインタビュー調査では、記述と並行して口頭でのより子細な回答も得ているが、紙幅の都合上、本稿では自由記述形式による回答のみの掲載にとどめた。口頭回答での内容報告は別稿に譲ることとする。⑷基本的に亡者の立体像は、種を問わずpretと呼称されている。Pretは厳密には「餓鬼」を意味するが、「悪霊」などの含意もある(冨田竹二郎『タイ日辞典 改訂版』養徳社、1990年、p.1125)。ワット・パイローンウアの地獄空間では、地獄界/餓鬼界の区別がなされておらず、すべての亡者の立体像を餓鬼像と称している。よって本稿ではそれにしたがった。⑸「③恋人」をさすfenは「配偶者」の意味もあり、したがって「①家族」とも解釈できる場合がある。しかし今回のアンケート調査ではその区別をしていない。よって集計にあたっては回答をそのまま反映した。⑹畝部俊也・山本聡子「タイ仏教写本『プラ・マーライ』について ─説話とその図像表現─」『アジア民族造形学会誌』8、アジア民族造形学会、2008年、p. 87⑺同上、p. 88⑻同上、p. 88⑼「45%以上」という数字について、子供を連れて来たかどうかは当初アンケート項目に入れておらず、状況に応じて調査途中で追加した項目であるので「以上」とした。⑽前掲『タイの地獄寺』、p. 64

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