研 究 者: 早稲田大学 文学学術院 助手 早稲田大学大学院 文学研究科 博士後期課程 岡 添 瑠 子1 はじめに本研究は、1980年代の欧米の画廊(コマーシャルギャラリー)で行われた展覧会実態の把握を通して、現代美術をリードしてきた主要画廊の活動を検証するものである。第二次大戦後の画廊や美術市場に関する研究では、抽象表現主義やポップ・アートをはじめとする芸術運動における画商の役割に焦点を当てた研究が多くなされてきた。中でも、60年代から70年代のヨーロッパにおけるミニマル・アートやコンセプチュアル・アート(注1)の国際的展開を詳らかにしたゾフィー・リチャードの研究は、ヨーロッパの様々な都市の画廊や美術館、コレクターらによるネットワークによって、アーティストたちの国境を越えた活動が可能になったことを明らかにした(注2)。同研究は特に、旧西ドイツ、デュッセルドルフの画廊主であったコンラート・フィッシャー(Konrad Fischer, 1939-1996、画廊の開廊は1967-)の従来の画商の枠に止まらない活動に焦点を当てている。フィッシャーは当時まだ誰にも注目されていなかった多くのアーティストをヨーロッパで初めて紹介し、国際美術展の開催や、美術館でのキュレーションなどを通して、ヨーロッパの前衛美術の動向において中心的存在となった。彼が展示したアーティストのほとんどは、まもなく高い評価を得ることとなった(注3)。このように、70年代までの画廊に関する研究は豊富であるものの、それ以降の画廊については未だ体系的な研究がなされていない。しかし80年代のヨーロッパでは、一大潮流となった具象絵画の動向である「新表現主義」のほかにも、イギリスの彫刻の動向など新しい動きが現れていた。また欧米では、しばしばアーティストは画廊の専属となり、アーティストにとっては、主要な画廊で展覧会を行うことが重要であった。こうした画廊を中心としたアートシーンは当時の日本ではほとんど知られていなかった。本研究は、80年代の欧米、とりわけヨーロッパにおける現代美術画廊について、まずその実態の一端を明らかにし、当時の美術界において画廊が果たした役割を検証する。その方法として、1977年に銀座に開廊し、欧米の先鋭的な現代美術を紹介していた画廊、「かんらん舎」が所蔵する欧米の画廊や美術館の展覧会案内状・葉書類を用― 539 ―― 539 ―㊾ 1980年代欧米主要現代美術画廊展覧会に関する調査研究
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