鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 540 ―― 540 ―いる。これら案内状は、画廊や美術館から展覧会やオープニングレセプションを告知するために関係者に送られる郵送物であり、かんらん舎には、80年代後半から90年代初頭にかけて送られてきた400点余りが保管されている(以下、「案内状」と表記)。また、画廊や美術館から送られたものだけでなく、かんらん舎で個展を行っていたアーティストから直接送られてきたものも多数含まれている。個展を行っていたのはダニエル・ビュレンやヴォルフガング・ライプ、イミ・クネーベルといった現代美術を代表する多くのアーティストで、1993年の閉廊まで、画廊によって、コンセプチュアル・アートやアースワーク、アルテ・ポーヴェラといった60年代以降の様々な美術動向が日本で紹介された。かんらん舎で展示をしたアーティストのほとんどが、先述のコンラート・フィッシャーの画廊で展覧会を行っていた。本研究は、まずこの案内状から、どのような画廊があるかをリストアップした〔表1〕。本稿では、その中からコンセプチュアル・アートをはじめとする主要な動向の展覧会を行っていた画廊を取り上げ、どのような展覧会を行っていたかを検証する。様々な都市の画廊の中から、ここでは特に、1980年代に画廊を取り巻く状況に変化が見られたパリとロンドンの2都市に焦点を当てて見ていく。2 パリ:現代美術の紹介者としての画廊1980年代のフランスの現代美術を取り巻く状況において、ミッテラン政権下の文化政策によって、各地方に現代美術センターが設置されたことは大きな変化であった。これは1960年代以降、美術の中心地がパリからニューヨークへ移っていた状況を踏まえ、「失われた国際的地位を立て直す」(注4)という目的から進められた。かんらん舎所蔵の「案内状」の中には、フランス南東部のグルノーブルに1986年に開館した国立現代美術センター(CNAC=Centre National dʼArt Contemporain de Grenoble, Magasin)のものが多数含まれている。倉庫を改装した広大な展示空間では、ヨーゼフ・ボイス(87年)やリチャード・ロング(87年)、ローレンス・ウェイナー(88年)など、それまでのフランスの美術館ではほとんど見られなかった主要な現代美術展が開催された。こうした地方の状況に比べて、首都パリでは現代美術を展示する美術館が他のヨーロッパと比べても非常に限られていた。1977年に開館したポンピドゥー・センターで開催されていた展覧会は、90年代に入るまでは主にシュルレアリスムなどの近代美術にとどまっており、パリでは主に商業画廊が現代美術の送り手となった。「案内状」にも含まれているダニエル・タンプロン画廊(Daniel Templon, 1966-)もそのひとつ

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