鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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注⑴本稿では、60年代に登場した一連の実験的な美術動向─プロセス・アート、ランド・アート、― 545 ―― 545 ―⑵Sophie Richard, Unconcealed, The International Network of Conceptual Artists 1967-77: Dealers,Exhibitions and Public Collections, ed. Lynda Morris, London: Ridinghouse, 2009.Fischer, Cologne: Verlag der Buchhandlung Walther König, 2007.5 おわりに本稿では、80年代のヨーロッパにおける現代美術画廊の動向を、主にパリとロンドンの状況を通して検証してきた。今回取り上げた画廊は、80年頃から特に新たな動向を扱い始め、国内だけでなく国外の美術動向の紹介に努めるという共通点が見られた。また今回の調査の目的のひとつは、60年代から70年代後半に最盛期を迎えたコンセプチュアル・アートの作家たちが、80年代にはどのように位置付けられていたかを明らかにすることにあった。画廊の活動を辿ると、多くのアーティストが80年代にも主要な画廊で活動を展開していたことが明らかになった。この頃にはコンセプチュアル・アートの作家たちはすでに評価が定まっており、画廊の主要な展覧会を占めていた。80年代の画廊は、アーティストたちの自由な発表の場を提供すると同時に、画廊がそれぞれ独自の方針を持つことによって、アートワールドにおいて確固とした地位を獲得していた。一方で、経営という側面では、一般的にコンセプチュアル・アートを扱うことは難しいとされている。コンセプチュアル・アートを先駆的に紹介していたリッスン・ギャラリーのニコラス・ログズデールによれば、大半のコレクターが関心を持つのは絵画や彫刻であり、「作品の物質性よりも、作品の意味内容の方が大事であることを理解している、限られた目利き」(注15)のコレクターはほとんどいないという。80年代は、世界的にアートフェアが増加した時代でもあった。本研究で見てきた画廊の中にも、シカゴやロサンゼルスで定期的に開催された大規模な国際アートフェアに参加し、自国のアーティストの作品を出品していた画廊が多く含まれている(注16)。アートフェアや国際的な美術市場の拡大など変化の渦中にあって、多くの画廊にとっては、質の高い展示を行う困難さもまた課題であった。しかしながら、画廊主とアーティストという個人と個人の関係性によって、制約に縛られない表現活動が活発化した当時の画廊の活動を辿ることは、美術市場が拡大の一途を遂げた現在、ますます大きな意義を持つと考えられるのである。アースワーク、アルテ・ポーヴェラなどを総称してコンセプチュアル・アートと呼ぶ。⑶コンラート・フィッシャーに関する主要な文献は以下の通り。Brigitte Kölle, okey dokey Konrad

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