16世紀~17世紀欧文史料にみる日本の絵画受容― 560 ―― 560 ―研 究 者:東京国立博物館 主任研究員 鷲 頭 桂1.研究の目的、方法15世紀以降、世界進出を本格化させたヨーロッパの人々は、各地の自然風土や生活習慣、政治、歴史、文化などについて記録し、膨大な量の書翰、報告や旅行記を著わした。日本に関係する記録も少なくなく、美術工芸品に関する言及も散見される。織田信長が狩野永徳とみられる絵師に描かせた安土城図屛風について詳述したルイス・フロイスの『日本史』や、茶壺として高い需要を誇った呂宋壺を買い求める日本人の様子を伝えたアントニオ・デ・モルガの『フィリピン諸島誌』などは早くから注目されてきた。当時日本で流通した美術工芸品についての記述は、日記や茶会記などの国内資料にも見られるが、極東の情勢を本国に報告することを目的とする欧文史料には、国内文献が語らない情報が記されていることがあり、極めて高い価値を持つ。こうした欧文史料の日本美術関連記事は、従来の美術史研究に活用されてきたが、特定のテーマに絞って断片的に引用されることが多く、包括的に情報を整理、分析する試みは稀だったように思われる。しかし、近年では、岡美穂子氏が漆器の材料や生産、流通について(注1)、スムットニー祐美氏、アルド・トリーニ氏は茶の湯文化を対象に(注2)史料分析を行なうなど、対外交流史、文化史、言語学の立場から重要な提言がなされ、注目に値する。本研究は先行研究に想を得て、絵画に関する記述を整理する。対象とした文献は次の7件の著作である。①トメ・ピレス『東方諸国記』(注3)(マラッカ、1511~1515年頃成立)②ルイス・フロイス『日本史』(注4)(長崎、1584年成立)③ ヤン・ハイヘン・ファン・リンスホーテン『東方案内記』(注5)(アムステルダム、1595年刊)④日本イエズス会編『日葡辞書』(注6)(長崎、1603年刊、1604年補遺刊)⑤アントニオ・デ・モルガ『フィリピン諸島誌』(注7)(メキシコ、1609年刊)⑥アビラ・ヒロン『日本王国記』(注8)(長崎、1619年頃成立)⑦ジョアン・ロドリゲス『日本教会史』(注9)(マカオ、1620~1634年成立)遣明使節として1517年に中国に上陸したピレスの『東方諸国記』は、ポルトガル人の日本初来航以前のマラッカ以東情勢を記した記録であり、約100年後に編まれたロドリゲスの『日本教会史』は、日本文化に対する深い観察眼を示す著作として知られ
元のページ ../index.html#572