― 595 ―― 595 ―Harley 1527 fol. 58r〔図3〕はキリストの受難物語の聖剥奪、十字架の道行き、キレネ人シモンがイエスの十字架を負うことを描くが、次のfol. 59v〔図4〕はキリストの死後、3人のマリアがキリストの墓を訪れる場面になっている。この間、Harley1527から欠落したものがToledo IIIには6フォリオ(片面のみに図像)に渡る24の聖書図像があり、Add. 18719には2フォリオ(両面に図像)に渡る16の聖書図像がある。これらの図像、テクストを比較対照し、それらをまとめた表は以下のようになる〔表1〕。Add. 18719 fol. 269vからfol. 272vは連続したフォリオで、その図像やテクストが描く物語には連続性があるので、この範囲でAdd. 18719のフォリオが喪失していることは考えにくい。それ故、現存するAdd. 18719のフォリオに対応するHarley 1527のフォリオが本来は存在したことが想定でき、それは表の斜線部分となる。他に特に気づいたことをいくつか取り上げよう。Toledo IIIとAdd. 18719の受難物語の磔刑部分のフォリオ数の差からわかることだが、Toledo IIIの複数の図像はAdd. 18719では省略されたり、合併されたりしている。合併された一例をここに取り上げよう。Toledo III fol. 67v Bではイエスの死後に地震が起こり、死んでいた聖徒たちの墓が開き、その遺体が復活して人々に現れたことを描いている。聖書図像〔図5〕では手前に墓から起き上がろうとする聖徒が一人、その後ろには左側の丸帽子と無帽の2人の生者と挨拶を交わす4人の復活した聖徒が右側に立っている。それに続くToledo III fol. 67v Cのテクストではイエスの死に様と地震を見た百人隊長がイエスが本当に神の子だと告白し、群衆たちは胸を打ちながら帰って行くとあるので、聖書図像〔図6〕の磔刑図を中心に左右に8人の人物が描かれるが、右側の十字架の真横で手を合わせてキリストを見上げる人物が百人隊長と考えられ、左側の中心人物は胸を打ちながら帰る者と考えられる。これらのToledo IIIの連続する画像とテクストはAdd. 18719 fol. 271r Dでは合併されて、その聖書図像〔図7〕では磔刑図を中心に右側には墓から復活する二人の聖徒が描かれ、左側には手を合わせて十字架のキリストを見上げる5人の人物が描かれる。最前列の者が百人隊長と考えられる。聖書テクストもToledo IIIの二つのテクストを一部省略して合併したものになっている。聖書テクスト(fol. 67v B)に対応する解釈テクスト(fol. 67v b)では、キリストの受難によって罪に死んでいた多くの者たちが命に復活し、その後ある者たちはキリストへの信仰を宣教したと告げ、その解釈図像〔図8〕では左に回心して洗礼を受ける者が描かれ、右に十字架を掲げて福音を宣教する者が描かれる。それに続く解釈テクスト(fol. 67v c)では異邦人の教会が悪しき誤りから回心してイエスを信じたことが
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