鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 596 ―― 596 ―告げられ、その解釈図像〔図9〕では中央に立つ5人の異邦人たちが、右側の偶像に背を向け、左に立つキリストを信じる姿が描かれている。これら(fol. 67v b, c)を合併したアディショナル写本の解釈テクスト(Add. 18719 fol. 271r d)では、トレド写本のテクストを一部修正しただけで両者を引用している。修正したのは「悪しき誤り(errore male)」を「偶像の誤り(errore ydolate)」に変更し、「偶像」を明示している。アディショナル写本の解釈図像〔図10〕では中央右側の人物は偶像に背を向け、向え合う剃髪の2人の修道士は手を合わせて左上の天上のキリストを拝んでいる。天上のキリストは地上の彼らを祝福している。次はToledo IIIでは8つの聖書図像と聖書テクストに渡るものをHarley 1527で1つに合併したために、テクストと図像に乖離が生じた例である。Toledo IIIでは3人のマリアがイエスの墓を訪れ、天使を目撃する〔図11〕(fol. 70r B, マルコ16:4-5、マタイ28:3)。2人の天使は彼女たちにキリストの復活を告げる(fol. 70r C, ルカ24:4-6、マルコ16:7)。彼女たちは他の弟子たちにそのことを報告する(fol. 70r C, マタイ28:8、ヨハネ20:2)。報告を受けたペトロとヨハネは墓に行き(fol. 71v A, ヨハネ20:4-5)、ペトロが中に入って様子を確かめ(fol. 71v B, ヨハネ20:6-7)、続いてヨハネが中に入って確認した(fol. 71v C, ヨハネ20:8)。ペトロとヨハネの2人は墓を立ち去るが、マグダラのマリアは1人墓に留まり、その入り口で泣いていた(fol. 71v D, ヨハネ20:10-11)。すると、2人の天使が現れ、マリアになぜ泣いているのかと尋ねる。マリアはイエスの遺体がどこにあるのかわからないと答える(fol. 72r A, ヨハネ20:11-13)。Harley 1527はToledo IIIの一連の8つの図像に3人のマリアが天使に出会う図像(Toledo III fol. 70r B)〔図11、14〕だけを用い、聖書テクストは墓に留まるマリア(fol. 71v D)〔図12〕と2人の天使との問答(fol. 72r A)〔図13〕の一部を合併して用い、マリアが一人墓に留まり、泣きながら、墓の中を覗いていたとする。それ故、3人のマリアが天使と出会う図像とマグダラのマリアだけが墓に留まるテクストとの間に乖離が生ずる。この聖書テクストに対応する解釈テクストはToledo IIIの墓に留まるマリアの聖書テクストに対応する解釈テクスト(Toledo III fol. 71v d)〔図15〕をそのまますべて採用している。その内容は悔い改める前に悪人だった者たちが回心すると、キリストを愛することに熱心になることを告げている(注15)。Toledo IIIの解釈図像では中央立つ人物が虚飾を意味する鏡を持つ左側の女性と賭博を意味するゲーム盤に背を向け、右側には聖書を持つ人物が描かれている〔図15〕。Harley 1527の解釈図像では擬人化したエクレシア(教会)がカリス(聖杯)を持って右側に立ち、回心した5人ほどの人物たちが手を合わせて彼女を拝んでいる。天上で

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