鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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注⑴Bruce A. Coats CHIKANOBU: Modernity and Nostalgia in Japanese Prints, Leiden: Hotei PublishingLeiden, 2006.― 609 ―― 609 ―さらに版元として松木平吉が『時代かがみ』を、秋山武右衛門が『真美人』を手がけたことが挙げられるだろう。当時力のあった版元の関与も幸いし、今日代表作と評される揃物の数々が刊行されるに至った。おわりに本稿では、これまで全体像の把握が難しかった周延の錦絵について、目録作成を試み、刊行点数の多い時期を中心に画業を概観した。明治17-19年に小林鉄次郎のもと歴史画の揃物を出版し活動の幅を広げると、明治22-23年には時事画題を描く傍ら、江戸回顧ブームを反映した錦絵により支持を得た。明治27-31年頃には、『千代田の大奥』や『時代かがみ』、『真美人』など、浮世絵の可能性を広げた代表作が制作された。このように振り返ると、周延は制作の主軸を美人画に置きながら、社会の動きに合わせてあらゆる画題に積極的に取り組んでいたことがわかる。千頭氏は、周延のレパートリーの幅広さについて「作画目録を追って眺めていくとそれがそのまま明治という時代の歴史を物語っているのだ(注26)」と評する。その芸術的特色や画風については改めて検討が必要であるが、版元とともに時代の流れを読み取り、常に客観的な視点を持ち合わせていたことが周延の大きな特徴といえるだろう。ただ、より総合的に周延像を把握するには、錦絵以外に版本や新聞挿絵、肉筆画の仕事にも目を向ける必要があり、今後は検討対象をさらに拡大しつつ、引き続き考察を進めてゆきたい。⑵鈴木浩平「楊洲周延と神木隊について─手記『夢もの語』に記された箱館戦争での記録」『浮世絵芸術』157号、2009年。⑶吉田漱・千頭泰共編「楊洲周延論・同錦絵目録<未定稿>」『季刊浮世絵』43号、1970年。同「楊洲周延・錦絵目録<2>」『季刊浮世絵』44号、1971年。⑷陶智子「揚ママ洲周延の浮世絵」『富山女子短期大学紀要』(32編、1997年)においてもリスト化が試みられているが、より網羅的で版元等の詳細データを含む吉田氏・千頭氏の目録を基本とした。⑸岩切友里子編著「芳年錦絵作品一覧」『芳年』平凡社、2014年。⑹美術館や博物館、古書店等の目録を情報源として2020年5月までにリスト化できた点数だが、全貌が把握できたとは言い難く、今後も更新を続ける必要がある。また吉田氏・千頭氏の目録のうち、図版が確認できない作品も現時点ではリストから除外せず、作品名から画題が推測できるものについては〔表1〕に反映させた。作品調査にあたっては古家満葉氏、土屋雅人氏より格別のご高配を賜りました。記してここにお礼申し上げます。

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