鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 618 ―― 618 ―周囲の菩薩は皆合掌する。右下の楼閣には大きな花の咲く庭があり、楼閣内の菩薩は供養台の前で合掌する。色紙形の語句の絵画化ではないものの、ここには日中讃に説かれる情景が描かれている。最下方の食事の情景は、他方浄土から戻った菩薩が飲食する場面であり、蓮池付近や、奏楽舞踊の菩薩は日中讃の「黄金の濱より歩めば鳧雁鴛鴦馴れたり/玉のうてなに赴けば/孔雀鸚鵡したがへり/あるひは宮殿楼閣に登りて他方界を見む/あるひは天人聖衆に/交りて伎楽歌詠せむ」といった描写に合致する。第5面中央には正面向きに楼閣が表され、説法印の如来形が座るが、これは近くに配された色紙形にあるように弥勒如来と考えられる。弥勒の周囲には多数の菩薩が集まる。日中讃では弥勒による説法が極楽で行われることが繰り返し説かれる。楼閣の前方左右には、各々多数の菩薩衆がひしめく楼閣が表され、さらに蓮池が続く。日中讃に、楼閣ごとに多数の菩薩があると説くのを表すのだろう。さらに下方には光を放つ樹木と蓮池、楼閣があるが、これは、宝樹や宝池や宮殿が無数の光明を放つとの記述を典拠とするとみられる。続いて第6面を上から順に見よう。最上方は正面向きの六角の楼閣に坐す如来のもとに菩薩が集まっており、やはり弥勒の説法か、あるいは阿弥陀の説法を表すとも考えられる。そして周囲の樹間には一如来と二菩薩の組合せが三組表されるが、これは『六時讃』では具体的に説かれないものの、『観無量寿経』などに説かれる樹下の阿弥陀三尊を表すと考えられる。また、楼閣前では跪く菩薩に、別の菩薩が衣を与えるさまが描かれる。これも『六時讃』には典拠らしき描写が見当たらない。しかしどちらも同系統の阿弥陀浄土図や二河白道図に認められる図像である(注8)。下には舞台で舞う菩薩とその左右で奏楽する菩薩が描かれる。これは先の第4面にもあったように『六時讃』にも説かれる、阿弥陀浄土図としては比較的一般的な描写である。そのさらに下に色紙形がある。これは日中和讃補説の最後に、菩薩衆が一生補處の菩薩の演説を聴聞している時に空から響く偈頌である。その横に描かれるのは台座上で腹前に両手を置く(定印か)如来形とその周囲に集まる菩薩衆で、菩薩衆は皆手を合わせる。一番下の3分の1程度は洲浜のある広い蓮池と、そこにかかる橋や楼閣が描かれ、周辺で思い思いに過ごす菩薩衆が表される。楼閣中にある菩薩は奏楽をし、太鼓橋を渡る菩薩衆は合掌し前に進む。洲浜には鳥が歩く。池には船が浮かび二菩薩が舵を切り、二菩薩が踊る。こうした描写は第4面の部分で引用した「黄金の濱より歩めば鳧雁鴛鴦馴れたり/(中略)/あるひは天人聖衆に交りて伎楽歌詠せむ」と重なる。ま

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